この記事を執筆した当時の私
獣医師/Ph.D.(獣医学博士)/大学や製薬会社で基礎研究に従事していた元研究者/ちょっと前まで犬・猫を診る臨床に従事していたが、現在はズーノーシスの予防と啓発ができる動物病院を探す求職者
- カプノサイトファーガ感染症の致死率は約20%
- 感染経路は犬や猫による咬掻傷
- 医療機関では「ペットの飼育状況」および「咬掻傷歴」を必ず報告
こんちには!
獣医師の修です。
今回は犬や猫に由来するカプノサイトファーガ感染症について解説します。
獣医療でもその認知度は高くない印象があり、臨床獣医師でも知らない人はいるかもしれません。
ただ、犬や猫は口腔内に保菌していることが多く、ペットからの感染報告もあるので、飼い主の皆さんにはぜひ知って欲しい内容です。
この記事のゲスト:翔太(しょうた)さん
30代前半の会社員で、自宅ではペットとして犬と猫を1頭ずつ飼育中
カプノサイトファーガ感染症の基礎知識
カ、カプノ…サイトなんちゃらって感染症について教えてください。
カプノサイトファーガ感染症のことですね!
分かりました。
カプノサイトファーガ感染症は、人・犬・猫の口腔に常在する細菌(カプノサイトファーガ属菌 [Capnocytophaga spp.])による人の感染症です。
人の歯科医学では歯周病関連菌として認識されているようですが、獣医療では犬および猫の歯周病への関与があるかどうかは分かりません。
現在は12菌種が知られており、人の口腔からは7菌種、犬と猫の口腔からは5菌種がそれぞれ報告されています。
私たちの口の中にもいるんですね!
そうみたいですね!
でも、人獣共通感染症として問題になるのは犬や猫のカプノサイトファーガです。
本記事では、犬や猫に由来する5菌種の感染による「狭義のカプノサイトファーガ感染症」についてまとめます。
カプノサイトファーガ感染症は、中高齢の男性での発症が多く、軽症例の報告が少ないため、致死率は約20%と高めです[1]。
カプノサイトファーガ感染症の原因
原因とか感染経路について詳しく教えてください。
犬や猫の口腔内に常在するカプノサイトファーガ属菌が人に感染することが原因です。
犬や猫に由来するカプノサイトファーガ属菌は5種類が報告されています。
- Capnocytophaga canimorsus
- Capnocytophaga cynodegmi
- Capnocytophaga canis
- Capnocytophaga felis
- Capnocytophaga catalasegens
国内の調査では、犬と猫における3菌種の保菌率が調査されています[2]。
細菌の種類 | 犬での保有率 | 猫での保有率 |
C. canimorsus | 74% | 57% |
C. cynodegmi | 86% | 84% |
C. canis | 66% | 66% |
国内で確認されているカプノサイトファーガ感染症のうち、ほとんどは C. canimorsus の感染によるものです。
おもな感染経路は犬や猫による咬掻傷からの感染ですが、皮膚や粘膜に元々あった傷や潰瘍を舐められることによる感染も報告されています[3]。
ちなみに、”canimorsus” は「犬」を意味する “canis” と「咬む」を意味する “morsus” に由来した命名です。
カプノサイトファーガ感染症の症状
感染して発症するとどんな症状がでるの?
ペット(犬や猫)の症状と人の症状をまとめますね。
犬・猫の症状
- 犬でカプノサイトファーガ属菌による角膜炎の報告あり[4]
- 人の歯科医学では歯周病関連菌
- 犬および猫の歯周病への関与については不明
人の症状
- 初期は発熱や倦怠感などの風邪のような症状
- 重症化すると急激に悪化して敗血症へ
- 意識障害など
- 患者の3割で腹痛や下痢などの消化器症状
- 咬掻傷部には目立った症状がでない
特に、中高齢の男性での発症が多く、また軽症の症例報告が少ないので、致死率は約20%と高いんです[1]。
カプノサイトファーガ感染症の検査・診断
ペットの検査や診断ってできるの?
実験室レベルでは、口腔からの分離培養とPCRや質量分析装置による菌種同定検査が可能ですが、動物病院レベルでの実施は難しいでしょう。
でも、国立感染症研究所(感染研)の獣医科学部第一室では PCR法による菌種特異的な検出が可能となっています[5]。
先ずはかかりつけの動物病院に相談し、担当医から感染研の担当者に問い合わせてもらうのが良いでしょう。
カプノサイトファーガ感染症の治療【犬や猫の場合】
もしも、ペットの口の中に菌がいるって分かったらどうするの?
無症状の場合は治療を行いません。
カプノサイトファーガ属菌は、犬や猫の口腔内常在菌なので無症状の場合は治療は行いません。
ただ、角膜炎を発症した場合は治療対象となります。
カプノサイトファーガ感染症の予防
予防方法について教えてください!
カプノサイトファーガ感染症に対するワクチンは、人用・動物用ともに開発されていません。
だから、犬や猫から感染しないように気を付けるしかありません。
具体的には、以下の点に注意してください。
- 野良猫には近づかない。
- 動物に傷口を舐めさせない。
- ペットの爪は定期的に切っておく。
- 動物に接した後には、手をよく洗う。
- 興奮している動物には手を出さない。
- 遊び目的でもペットを手荒に扱わない。
医療機関を受診する方へ
元々あった傷を舐められただけで発症した報告もあるので[3]、発熱や頭痛に引き続く別の症状が見られた場合は、すぐに救急病院を受診しましょう。
その際、医療機関の担当者に「ペットの飼育状況」および「咬掻傷歴」を必ず報告してください。
よろしければ、以下のフォーマットをご利用ください。
もし、「具合が悪いけど病院に行った方がいいのかな…」と迷っていたら、救急安心センター事業(♯7119)を利用しましょう!
医師・看護師などが症状を聞き取り、緊急性や受診の必要性を判断してくれます。
あなた自身ではなくお子様の場合は、子ども医療電話相談事業(♯8000)を利用しましょう!
小児科医師や看護師が症状を聞き取り、緊急性や受診の必要性を判断してくれます。
カプノサイトファーガ感染症のまとめ
カプノサイトファーガ感染症についてまとめました。
カプノサイトファーガ属菌は犬や猫の口腔内常在菌で、動物は基本的には無症状です。
飼い主さんは、犬や猫がカプノサイトファーガ属菌を持っている前提でペットとの生活しなければなりません。
ただ、注意していてもペットに咬まれたり・引っ掻かれたりすることはあるでしょう。
その場合は、様子を見ることなく、医療機関を受診してペットの咬掻傷歴を伝えて下さい。
これまでの経験や勘で判断することないようお願いいたします。
参考文献
[1] 厚生労働省 カプノサイトファーガ感染症に関するQ&A
[2] SUZUKI, Michio, et al. Prevalence of Capnocytophaga canimorsus and Capnocytophaga cynodegmi in dogs and cats determined by using a newly established species-specific PCR. Veterinary microbiology, 2010, 144.1-2: 172-176.
[3] BUTLER, T. Capnocytophaga canimorsus: an emerging cause of sepsis, meningitis, and post-splenectomy infection after dog bites. European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases, 2015, 34: 1271-1280.
[4] LEDBETTER, Eric C.; FRANKLIN‐GUILD, Rebecca J.; EDELMANN, Michele L. Capnocytophaga keratitis in dogs: clinical, histopathologic, and microbiologic features of seven cases. Veterinary ophthalmology, 2018, 21.6: 638-645.
[5] 国立感染症研究所 獣医科学部第一室
2024年1月24日 修(獣医師&獣医学博士)
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