消費者に知って欲しい3種類の食料自給率&日本の食を支える獣医師の存在
- 食料自給率の対象食品にお酒は含まれない
- 食料自給率は3種類も指標がある
- 食料自給率の維持・向上に貢献する獣医師がいる

こんちには!
獣医師のアッチーブです。
皆さんは「食料自給率」という言葉を耳にしたことはありますか?
読んで字のごとく、「食料」を「自給している割合」を指す言葉ですね。
私たちが食べる「食料」は日本で生産した食料だけではありません。
諸外国から輸入している「食料」もたくさんあります!

「日本で生産した食料」はどのぐらいあるのか?
それを知るために「日本全体に供給された食料」に占める「日本で生産した食料」の割合(=食料自給率)を算出しています。
獣医師の私が食料自給率の記事を執筆した理由は、獣医師の専門性が食料自給率の維持・向上に重要だからです。
この記事では食料自給率の仕組みや雑学を説明した後で、獣医師が如何に食料自給率に貢献しているかを説明していきますね!
ぜひ、最後までお付き合いください。
この記事のゲスト:翔太さん
30代前半の会社員。日本の食料自給率は低いと知っているが、それ以外あまり意識したことはない。
食料自給率の対象食品
食料自給率の計算で対象となる「食料」は、私たちが食べるほとんど全ての食べ物です。
米・麦・肉・魚介類・野菜・果物など日本には色々な食べ物がありますが、全て品目ごとに分類し、輸入量と国内での生産量を調べて、自給率の計算を行っています。

「ほとんど」ってのが気になるな~例外もあるんですよね?

するどいですね!例外はお酒です。お酒は嗜好品扱いなので食料自給率の計算対象外なんですよね。

えっ!?でも、日本酒ってお米からできてるじゃん!日本酒をたくさん呑んだら、間接的にお米の消費が増えますよね?

理屈ではそうなんですが…現行の制度では食料自給率には反映されていません。

へぇ~
3種類の食料自給率

あまり知られていませんが、食料自給率は3種類あるんですよ!
- 品目別自給率
- カロリーベースの自給率
- 生産額ベースの自給率

1つずつ見ていきましょう!
品目別自給率は重量ベース
品目別自給率は、輸入量や生産量に使われる「重さ」を用いた指標です。
シンプルで分かりやすいですよね!

でも、扱いにくい側面があります。

どんなことですか?

例えば、食用以外の重さ(飼料や種子など)も含んでしまうことだね。

食べていない部分も含むのは違和感がありますね!

他にも悩むことがあるよ!例えば、同じ米でも玄米・精米・炊飯済みご飯で重さは変わるでしょ?

小麦だったら、「原料の小麦・小麦粉・パン・麺のどれ!?」みたいな?

そうそう!食の多様性がありすぎてややこしいんだよね。

だから、これから説明する2つの自給率を採用することが多いんだ!
カロリーベースの食料自給率
「日本食品標準成分表」に基づいて、各品目の重量を熱量(カロリー)に換算した指標だね。
- 1人の国民が1日に食べる「食料」から得られるカロリー(供給熱量):2,260 kcal
- 上記熱量の内、国産食品から得られるカロリー(国産供給熱量):850 kcal
よって、850÷2,260×100=38%ってのが令和4年度のカロリーベース食料自給率だよ!

これの問題点は2つかな。
1つは単位重量当たりのカロリーが高い食品の影響が大きいこと!
例えば、米・小麦・油脂類は、同じ重さの他の食品と比較するとカロリー数が高いから自給率も高めになるよね。
もう1つは分母の食料は食べられずに廃棄された食料も含むこと。
食べていないからカロリー摂取になっていないんだけどね…
生産額ベースの食料自給率
「生産農業所得統計」に基づいて、各品目の重量を金額(\)に換算した指標です。
食料の生産・輸入・加工・流通・販売は経済活動だから全てお金に換算して考えることができるでしょ!
- 食料全体の供給に要する金額の合計:17.7兆円
- 食料の国内生産額:10.3兆円
よって、10.3÷17.7×100=58%ってのが令和4年度の生産額ベース食料自給率だよ!

これの問題点は、単価の高い食品の影響が大きくなることかな。
特に畜産物・野菜・魚介類は国産品と輸入品で価格がだいぶ違うでしょ?
カロリーベース食料自給率よりも高いのは、輸入食品の価格よりも国産食品の価格の方が高いのが影響しているかもね。
3つの食料自給率を比較

重量ベース、カロリーベース、生産額ベースの3つの自給率を比較した表*を作ってみました!
カロリーベース 自給率 | 生産額ベース 自給率 | 品目別ベース 自給率 | |
米 | 100 | 100 | 99 |
小麦 | 16 | 17 | 15 |
芋類 | 63 | 55 | 70 |
大豆 | 25 | 35 | 6 |
野菜 | 76 | 87 | 79 |
果実 | 30 | 62 | 39 |
畜産物 | 17 | 47 | 48 |
魚介類 | 50 | 41 | 54 |
砂糖類 | 34 | 55 | 34 |
油脂類 | 3 | 30 | 14 |
その他 | 29 | 75 | – |
全体 | 38 | 58 | – |

食料自給率が38%と聞くとセンセーショナルだけれど、生産額ベースだとまずまずって感じがしない?
メディア等で取り上げられる時は「食料自給率」としか言わないことも多いので、どの方法で算出した自給率なのか?を意識して見る必要がありますね!
*農林水産省のHPで公開されているデータから筆者が算出した数字
似て非なる食料国産率
食料自給率と似たような言葉で「食料国産率」という指標があります。
これは日本の畜産業が輸入飼料に依存して畜産物を生産している状況を評価するものですね。

ん~もう少し分かりやすく!

牛・豚・鶏などの家畜を飼育するためには餌(=飼料)が必要ですね!

そうだね!

その飼料の大半を日本は輸入して賄っているんだよね。

ってことは…日本で育てているけど、食べているのは外国の餌ってことよね?

そうそう!「輸入した餌で育った家畜の畜産物を消費している私たちは間接的に外国の食料を消費してるよね!」って考え方があってね、カロリーベースと生産額ベースの自給率の計算では、国内で生産した食料でも輸入飼料を使って生産した分は「国産」にカウントしていないんだ。

へぇ~「国内の畜産農家によって生産された国産≠国産飼料を用いて生産された国産」なのね!

そして、食料国産率は飼料が国産か輸入かを区別していない指標なのさ!

国内の畜産農家が生産した畜産物を全てをカウントしているんだね!

その通り!
令和4年度のカロリーベースの食料国産率
- 国民1人が1日に食べる「食料」から得られる供給熱量:2,260 kcal
- 上記熱量の内、国産食品から得られる国産供給熱量:1,055kcal
- 1,055÷2,260×100=47%
令和4年度の生産額ベース食料国産率
- 食料全体の供給に要する金額の合計:17.7兆円
- 食料の国内生産額:11.5兆円
- 11.5÷17.7×100=65%

輸入飼料を用いて生産された分をカウントしたことで、食料自給率よりも値が大きくなったでしょ!

逆に考えると、国産の飼料を食べて生産された純粋な国産品は少ないってことですね!

そうだね。
食料自給率が低いと何がダメなのか?

日本の食料自給率の低下傾向が続いているってニュースで聞くけど、何が問題なの?

イイ質問ですね!それを説明するためには食料安全保障について知っておく必要があるよ!

また難しい言葉…食料安全保障って何ですか?

食料安全保障は、不測の事態が生じた場合でも人が生きるの上で最低限必要とする食料の供給を安定的に確保することを指す言葉です。

不測の事態って?

例えば、大規模な災害、悪天候による農作物の不作、戦争などで輸入が途絶えるとかだね。

なるほど~ロシア・ウクライナ戦争で小麦の価格が高騰したし、鳥インフルエンザが発生したら卵の価格もすごいことになったよね!

おっ!さすが!日常の変化を自分事化できていて素晴らしい!
食料品の物価が高騰するということは種々の要因で市場への供給量が落ちている証拠です。
そういった状況でも食料を安定的に供給し、日常的な食生活を維持していかなければなりません。
これが食料安全保障です!

食料自給率の低い=海外からの輸入に依存した状態!もし輸入が途絶えるような事態になったら食料を安定的に供給するのは難しいよね!

食料は毎日必要となるものです。「今は輸入できないから我慢しましょう!」なんて言って納得する人がいるとも思えません。
「食料はいつ輸入できなくなるか分からない。だから、出来るだけ国内で生産できるようにしよう!」
これが食料自給率を高く維持しておく必要がある理由です!
食料安定供給で大事なこと
食料を安定供給するために大事なことは次の3つですね!
- できる限り国内で生産
- 安定的な輸入
- 備蓄
できる限り国内で生産
国内で生産できるものは、出来る限り国内で生産していくことが大切ですね!
これは生産者の皆さんに頑張ってもらいましょう!
安定的な輸入
気候などの影響で国内生産が難しいものは輸入が必要です。
例えば、戦争などで輸入先が不安定になりそうなら、別のルートで輸入できるように日頃から関係を築く必要がありますね!
これは政府や外交官の人に頑張ってもらいましょう。
備蓄
必要な分だけ準備するって考え方も大切かもしれませんが、不測の事態ってのは突然やって来るんですよね。
「こうなるとは思わなかった」っていう後悔先に立たずな状況では困るので、肥料や飼料など保存できるものは備蓄しておく必要がありますね!
これも政府の仕事かな。
私たちにできること

もう少し自分事化して考えてみたい!食料の安定供給を維持していくために私たちにできることは何ですか?

おっ!素晴らしい視点ですね!一番簡単なことは食品の原材料を国産に切り替えることかな!国産品を消費すれば生産を後押しできるので、生産者の生活を支えることができます。

なるほど!でも、料理は苦手なんですよね!基本は外食とか冷凍食品だから…

最近は国産100%をウリにした冷凍食品もありますよ!


私も料理は面倒なので旬をすぐに(旬すぐ)には頻繁にお世話になってます!帰宅したらご飯を炊いて、レンジで解凍・温めするだけ!!自給率向上に貢献できる夕飯があっという間に完成ですよ~

その他には?

実際に料理の自給率を計算してみてはいかがでしょうか?農林水産省が料理の自給率を簡単に計算できるツールを提供していますよ!
獣医師の貢献

最後に獣医師が食料自給率の維持・向上にどう貢献しているかをまとめますね!
一番分かりやすいのは家畜の健康を守ることですね。
牛・豚・鶏などの家畜が病気になったら、肉・乳・卵などの生産物の量も減ってしまいます。
生産量が減れば食料安定供給が揺らぐので、獣医師は家畜の健康を守ることで生産性の向上&食料の安定供給に貢献しています。

日本の酪農製品や鶏卵の食料国産率が高めに維持されているのは、獣医師と生産者の連携が上手くいっている証拠ですね!
また、鳥インフルエンザや口蹄疫などの伝染病が発生すると、発生地域の流通そのものが一定期間ストップします。
これは個々の農場だけで済む話ではありません!

そこで病原性微生物を農場に侵入させない・国内で拡大させないために尽力する獣医師もたくさんいますよ!
例えば、動物検疫所にいる家畜防疫官や家畜保健衛生所にいる家畜防疫員がその仕事に従事します。
前者は農林水産省に所属する国家公務員獣医師で、後者は各都道府県の公務員獣医師です。

食品衛生に関わる獣医師もいるよ!
各都道府県のと畜場&食鳥処理場には、と畜検査員&食鳥検査員が配置され、市場に流通する前のお肉を検査しています。
他にも、飲食店やスーパー等の食品関連営業施設の立入検査などを行う食品衛生監視員*や食品製造施設等に配置される食品衛生管理者*もいて、それぞれの立場から食の安全が脅かされないように日々尽力していますね。
*資格要件で「獣医師」が対象となっているだけなので獣医師以外の者もいます。
法律で国・自治体・民間企業に配置が求められる獣医師
獣医師と聞くと動物のお医者さんをイメージする人が多いですが、先ほど書いたように動物病院以外で勤務する獣医師もいます。
その理由は、国・自治体・民間企業に獣医師を配置することが法律で決められているからです。

詳しくは以下の記事をご覧ください。

ある獣医師の家庭の食費
私が学生の頃に実習でお邪魔した家庭は、夫婦で獣医師をしていました。
夫は家畜防疫員で、妻は生産動物の臨床獣医師です。
どちらも獣医師としてのプロ意識が高く、食料自給率への問題意識もしっかりと持っていたご夫婦だったので、食品の原材料はできる限り国産のものを選ぶようにしている家庭でした。
その夫婦には中学生の男児が2人いたのですが…夫婦は口をそろえて「食費が大変!」と愚痴ってました。

育ち盛りの男の子の食欲を国産の食品で賄っているからですね(笑)
私の経験も踏まえて、「きっと高校生になったらもっと食欲増ですよ!」って言ったら、「それ聞きたくなかったわ~」って怒られましたw
【まとめ】食料自給率と獣医師
今回は食料自給率の仕組み&雑学と獣医師が食料自給率の向上にどう貢献しているかをまとめました。
私は、食料自給率が低いことを学校で教わった記憶はありますが、どうしてそれが問題なのかを教わった記憶はありません。
今でもそれが継続しているかは不明ですが、「なぜ?どうして?」を理解すれば、食料自給率を自分事化できる人も増えると思います!
また、動物のお医者さんじゃない獣医師は、皆さんが知らないところで、あなたの生活を支えています。
そんな獣医師たちの活躍を水の泡にしないために、私もこのサイトで情報発信を続けていきますね!
2024年4月7日 アッチーブ(獣医師&獣医学博士)
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