この記事を執筆した当時の私
獣医師/Ph.D.(獣医学博士)/大学や製薬会社で基礎研究に従事していた元研究者/現在は動物病院で犬・猫の診療をしている臨床獣医師
修
こんにちは!
獣医師の修です。
将来、一次診療でEBVMを実践する獣医師となるために、本日よりジャーナルクラブを始めます。
修
文献などを読んで感じたことや疑問点を元研究者目線で展開していくよ~
それでは早速始めます!
今回読んだ論文は “Large-scale survey of adverse reactions to canine non-rabies combined vaccines in Japan” です。
文献の詳細情報は以下の通りです。
- PMID: 22264736
- PMCID: PMC7112591
- DOI: 10.1016/j.vetimm.2011.12.023
研究の背景と目的
- 背景:犬のワクチン(非狂犬病混合ワクチン)接種に関連する有害事象(Vaccine-associated adverse events [VAAEs])について、日本では大規模な調査は行われていなかった。
- 目的:日本で VAAEs(アナフィラキシーを含む)の大規模な調査を行うこと。
研究方法
- 調査期間:2006年4月1日から2007年5月31日までの約1年間
- 犬用ワクチン(非狂犬病混合ワクチン)の副反応に関するアンケートを作成し、日本国内の動物病院に配布
アンケートの内容
- 生年月日、犬種、性別、去勢手術・避妊手術の有無、体重、接種日などの情報
- 接種したワクチンの種類
- VAAEs に関連する情報(症状、接種後の発症時間など)
ワクチンの種類
ワクチンを5種類に分類
- Group 1(犬パルボウイルス、犬ジステンパーウイルス、犬アデノウイルス2型、犬パラインフルエンザウイルスからなる混合生ワクチン):デュラミューンMX5、ユーリカン5、ノビバックDHPPi
- Group 2(Group 1 に弱毒または不活化コロナウイルスを加えたもの):キャナイン-6Ⅱ、デュラミューンDX6、バンガードプラス 5/CV
- Group 3(Group 1 に不活化レプトスピラを加えたもの):キャナイン-8、ユーリカン7、ノビバック DHPPi+L
- Group 4(Group 1 に不活化コロナウイルスと不活化レプトスピラを加えたもの):デュラミューンDX8、バンガードプラス 5/CV-L
- Group 5(Group 1 に弱毒コロナウイルスと不活化レプトスピラを加えたもの):キャナイン‒9Ⅱ
統計解析
- 統計解析は R(バージョン2.11.1)
- 体重と年齢はカテゴリーデータに変換して解析
- 性別、去勢手術の有無、体重、年齢、ワクチンの種類を変数としたロジスティック回帰分析を実施
研究結果
- 573の動物病院から57,300頭のワクチン接種犬について有効回答が得た;このうち359頭が VAAEs と診断(10,000頭あたり約63頭)
- 359頭の内訳:雄145頭(40.4%)、雌156頭(43.5%)、去勢雄24頭(6.7%)、避妊雌24頭(6.7%)、不明10頭(2.8%)
- 359頭の内、164頭(45.7%)は生後2~9カ月齢
- 359頭の内、249頭(69.4%)は体重0~5 kg
- 359頭の内、299頭(83.3%)は接種後12時間以内にVAAEsの症状発現
- 359頭の症状の内訳:アナフィラキシーが41頭、皮膚症状が244頭、消化器症状が160頭、その他の症状が106頭
- VAAEs の犬種(報告数が多い順):ミニチュアダックスフンド181頭(50.4%)、チワワ37頭(10.3%)、雑種犬18頭(5.0%)、トイプードル17頭(4.7%)
- アナフィラキシー症例:全例が接種後60分以内に発症し、19頭(46.3%)が5分以内に発症
- アナフィラキシー症例の41頭の内、13頭(30%)はミニチュアダックスフンド
- アナフィラキシー症例の41頭を再調査し31頭の情報(回収率75.6%)が得た;31頭中27頭(87.1%)で虚脱、24頭(77.4%)でチアノーゼ;虚脱とチアノーゼの両方が観察されたのは22頭(71%)
- 多変量ロジスティック回帰モデルでは、アナフィラキシーの発生と性別・体重・年齢・ワクチンの種類との間に有意差を認めず
結論と臨床上の重要性
- 日本の犬におけるVAAEsの発生率はイギリスやアメリカの報告よりも高かった。
- 犬のワクチン接種後におけるアナフィラキシー発生率(7.2/10,000ワクチン接種犬)も海外の調査で報告されたものより高かった。
- 小型犬(特にダックスフンド)は大型犬よりもVAAEsの発生報告が多いという傾向は、別のグループからも報告されていた。
- 犬におけるVAAEsの発生は、犬種の素因が重要な役割を果たしているかもしれない。
- 今回の調査ではVAAEsを発症しなかった犬の情報は集めていないので、VAAEsのオッズ比は計算していない。
- 本結果は、体重や年齢などの要因からVAAEsの潜在的なリスクを予測できることを示唆している。
キーワード
- Vaccine-associated adverse events (VAAEs)
- ワクチン関連有害事象
- アナフィラキシー
- ロジスティック回帰分析
- Free PMC article
感想と疑問
- 新型コロナウイルス感染症のワクチンでは、成人に接種する量と小児に接種する量が異なることが話題となっていた。犬ではどうなのだろうか?年齢・体重・体表面積によって接種量を変更するという考え方はあるのだろうか?仮に「小型犬の接種量は大型犬の1/2」みたいな差を設けた場合、小型犬と大型犬でVAAEsの発生率に差があるのだろうか?
- ワクチン未接種犬とのランダム化比較試験やVAAEsの症例におけるGenome-Wide Association Study (GWAS)が今後展開されたら面白い!
- WSAVAが提唱するようなワクチンプロトコル(コアワクチンの接種を2~3年に1回)にした場合はどうだろうか?曝露頻度が減るのだからVAAEsの症例数は減ると予想できるが、それをちゃんとデータで示すことも必要だと思う。
2023年12月9日 修(獣医師&獣医学博士)
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