この記事を執筆した当時の私
獣医師/Ph.D.(獣医学博士)/大学や製薬会社で基礎研究に従事していた元研究者/ちょっと前まで犬・猫を診る臨床に従事していたが、現在はズーノーシスの予防と啓発ができる動物病院を探す求職者
修
こんちには!
獣医師の修です。
今回読んだ論文は「品種別にみたわが国の家猫における抗猫コロナウイルス抗体の保有状況」です。
文献の詳細情報は以下の通りです。
- PMID: N/A
- PMCID: N/A
- DOI: 10.11252/dobutsurinshoigaku
研究の背景と目的
- 猫コロナウイルス(FCoV)に感染猫の一部は猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症するので、FCoVの猫における感染状況を知ることはFIPの発症予見や診断対策につながる。しかし、国内の猫におけるFCoVの疫学調査は実施されていない。
- 国内の猫におけるFCoVの感染状況を調べるために血清疫学調査を実施すること。
対象動物
全国の動物病院からマルピー・ライフテック株式会社(大阪府池田市)に依頼されたFCoV抗体検査の結果の内、品種および年齢が判明していた症例(N=83,606)
除外した動物(症例)
以下の条件に該当した症例は除外
- 家猫以外の猫科動物
- 実験動物としての猫
- 多頭飼育環境下の猫
- 同じ地域で一度に多頭数検査されたもの
- 同一個体の再検査結果
期間
1993年4月~2009年7月までの16年4ヶ月
研究方法と統計解析
- FCoV を感染細胞を利用した免疫染色法
- 被験血清は、100倍希釈から2倍段階希釈
- 2群間(純血種群と雑種群)の抗体陽性率をカイ二乗検定で比較
- p<0.0001で有意差ありと判定
研究結果
- 純血種の陽性率 (76.3%) は雑種のそれ (50.1%) に比べて有意に高値
- 抗体の陽性率は、両群ともに4ヶ月齢まで急激に上昇し、1歳齢まで同じレベルで移行した後、加齢に伴って減少
- 抗体の陽性率を年別に比較すると、純血種群では上昇し、雑種群では低下
- 純血種群で各品種ごとに陽性率を比較すると11品種(以下参照)が有意に高い陽性率
- スコティッシュフォールド
- メインクーン
- ノルウェージャンフォレストキャット
- ラグドール
- アビシニアン
- ソマリ
- マンチカン
- シンガプーラ
- アメリカンカール
- ベンガル
- オシキャット
- 純血種群において各品種ごとに陽性率を比較したら、5品種(以下参照)が有意に低い陽性率
- シャム
- ペルシャ
- ヒマラヤン
- オリエンタル
- アメリカンショートヘア
- 月別、地域別、性別に関しては、2群間で有意な差を認めず
考察と臨床上の重要性
- 海外の報告では抗体の陽性率は加齢に伴い上昇しているが、今回はそれとは逆
- 日本のFCoVの感染状況は、海外のそれとは異なるかも
- 純血種群では抗体の陽性率が上昇
- 純血種におけるFCoVの感染対策を検討するには飼育環境や防疫対策を調べる必要あり
- 猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)では抗体依存性感染増強(Antibody-dependent enhancement [ADE])が報告されているので、今回の成績はFIPの可能性を論じる指標になりうる。
- シャムとペルシャはFCoV感染およびFIP発症に対する抵抗性を有している可能性あり
読んだ感想
- 同じ猫でも品種間で感染状況が異なる背景には何があるのか?非常に気になるので、後続の研究(例えば、各品種間で Genome-Wide Association Study [GWAS] )を期待したい。
- 抗FCoV抗体の検出がFIPの発症の可能性を測る指標になりうるかの後続研究も期待したい。
- 飼い主へインフォームをどうするのが良いだろうか?今回の報告や他の報告を参考にすると、品種ごとに内容を変えた方が良い気がする。
- 猫コロナウイルスの定義が論文掲載時点と現在で変わっているので、読むときは注意が必要かな。
- この論文でいうFCoVは、現在の猫腸コロナウイルス(Feline enteric corona virus [FECV])のことだと思う。
- 現在はFECVとFIPVの2つを合わせてFCoV
- 「FECVとFIPVは非常に類似しており、血清レベル・遺伝子レベルともに区別は難しい」という情報が無いとADEの考察の部分の理解は厳しいと感じた。この部分は読者に不親切だと思った。
- ヒマラヤンはペルシャとシャムの交配で生まれるから品種とは言わないのでは?この報告ではヒマラヤンを品種として扱っているが学術的にはそれで良いのだろうか?品種の定義をしっかりと記述した方が良い。
2024年1月31日 修(獣医師&獣医学博士)
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