【JC05】1次診療施設における猫の嘔吐・下痢に対する加水分解食の使用

ジャーナルクラブ
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この記事を執筆した当時の私
獣医師/Ph.D.(獣医学博士)/大学や製薬会社で基礎研究に従事していた元研究者/ちょっと前まで犬・猫を診る臨床に従事していたが、現在はズーノーシスの予防と啓発ができる動物病院を探す求職者

修

こんちには!

獣医師の修です。

新年最初のジャーナルクラブを始めます!

今回読んだ論文は “The use of hydrolysed diets for vomiting and/or diarrhoea in cats in primary veterinary practice” です。

文献の詳細情報は以下の通りです。
・PMID: 32895973
・PMCID: N/A
・Open Access: Wiley Online Library でPDFのダウンロード可能

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研究の背景

猫の慢性腸症(原因不明の慢性的な消化管徴候をもたらす疾患)が疑われる(または確認された)場合に、市販の加水分解食が使用されてきた。しかし、加水分解食に対する反応を評価した報告は少ない。

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研究の目的

  1. 原因不明の慢性嘔吐・下痢を呈した猫に対して、抗生物質やグルココルチコイドを併用した場合としない場合の加水分解食を処方した反応を記述すること。
  2. 加水分解食の給餌前または給餌と同時に使用される抗生物質またはグルココルチコイドが、嘔吐または下痢に対する反応と関連しているかどうかを判断すること。
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研究方法

  • VetCompass™ Programmeのデータベースから2016年に英国の獣医学的ケアを受けた512,213匹の猫の匿名化記録を、加水分解食の関連語を用いて検索
  • 加水分解食を受けた証拠がある猫5569頭のうち5000頭(90%)の記録を、胃腸の適応、先行・同時投薬、加水分解食介入後の反応についてランダムにレビュー
  • 5000頭中977頭(19.5%)の候補猫が症例定義と包括基準を満たしたので、さらなる解析へ
    → 977頭すべてが原因不明の慢性嘔吐・下痢を呈し、そのうち107頭は腸の病理組織検査で炎症性変化の記録あり

加水分解食の関連語

検索した加水分解食の関連語は以下の6つ*

  1. zd
  2. z/d
  3. HA
  4. hypoallergenic
  5. anallergenic
  6. allergy

*注:加水分解食を使用した記録を見つけたいが使用された正確な単語が不明なので、商品名か略称か、あるいは同義語が使用されたことを想定したと思われる。

国または地域

グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国(UK)

対象となった猫の詳細

  1. 少なくとも2週間の持続的または断続的な嘔吐・下痢に対して初めて加水分解食を処方
  2. これらの治療食の投与に追加的に関連する可能性のある疾患、例えば、皮膚疾患などの同時発症の証拠がない
  3. 処方後1ヶ月以内に食餌療法の払い戻しがあった、または中止されたという証拠がない
  4. 消化器症状で紹介された症例は紹介状がある
  5. 消化器症状で死亡または安楽死させられた症例以外は同じ診療所で少なくとも6ヶ月のフォローアップあり
  6. 検査で嘔吐や下痢の病因が判明しない

対象とならなかった猫の詳細

  1. 消化器症状のために既に加水分解食を使用している場合
  2. 以前の医療記録は入手不可の場合
  3. 消化器症状以外の症状で食事療法を開始後、1週間以内にグルココルチコイドを使用した場合

抽出したデータの詳細

  1. 加水分解食が最初に処方された診察日以前に、嘔吐・下痢のために駆虫薬・抗生物質・グルココルチコイドの処方の有無**
  2. 加水分解食が最初に処方されたときに抗生物質またはグルココルチコイドの処方の有無***
  3. 加水分解食が初処方された次の診察で、嘔吐・下痢のために抗生物質またはグルココルチコイドの処方の有無
  4. 加水分解食を処方後の診察で、嘔吐・下痢に対して非グルココルチコイド系抗炎症薬または免疫抑制薬の処方の有無
  5. 猫が消化器疾患に関連した症状で死亡または安楽死したかどうか

**嘔吐・下痢のために過去に受診した回数を評価する期間に制限はないため、各症例について入手可能な医療記録の期間に依存

***グルココルチコイドを同時に投与された症例では、食餌療法開始後3ヶ月以内に当該薬を漸減・中止の有無

反応不良の定義

  • 食事療法が最初に処方された後の診察で嘔吐・下痢に対して抗生物質またはグルココルチコイドによる介入を受けた
  • 最低6ヶ月のフォローアップ期間内に消化器系徴候に関連した死亡報告あり

グルココルチコイドを併用した食事療法を受けた症例の場合

  • 食餌療法を開始してから少なくとも3ヵ月後に、嘔吐/下痢に対してさらなるグルココルチコイドまたは抗生物質の介入を受けた
  • 消化器系徴候による死亡報告あり

統計解析

ロジスティック回帰分析を行って、以下の独立変数と反応不良のオッズとの関連性を評価

  1. 加水分解食が最初に処方されたときの年齢(6歳以下と6歳以上)
  2. 毛色
  3. 性別および去勢・避妊の状況(雄、去勢雄、雌、避妊雌)
  4. 品種
  5. 治療前のサブカテゴリー:加水分解食が最初に処方される前のいずれかの来院時に嘔吐/下痢に対して抗生物質またはグルココルチコイドの処方の有無
    1. 嘔吐/下痢に対して抗生物質またはグルココルチコイドを処方されていない
    2. 嘔吐/下痢に対してグルココルチコイドの処方なし/抗生物質を処方あり
    3. 嘔吐/下痢に対してグルココルチコイドの処方あり/抗生物質を処方なし
    4. 嘔吐/下痢に対して抗生物質とグルココルチコイドの両方の処方あり
  6. 治療サブカテゴリー:最初の処方時に食餌と同時に抗生物質またはグルココルチコイドの処方の有無
    1. 加水分解食のみ(抗生物質とグルココルチコイドを併用しない)
    2. 加水分解食と抗生物質を併用(グルココルチコイドなし)
    3. 加水分解食とグルココルチコイドを併用(抗生物質を併用または含まない)

ロジスティック回帰分析の詳細

  • 単変量解析でp<0.2となる説明変数を多変量解析へ
  • 多変量解析モデルは変数減増法を用いて構築
  • 潜在的な交絡因子は、最終モデルに再追加した後にオッズ比に著しい変化がないかで評価
  • モデルの適合性は、Hosmer-Lemeshow検定を用いてROC曲線下の面積を計算して評価
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研究結果

  • 抗生物質とグルココルチコイドを併用せずに加水分解食を最初に処方した697頭(全体の71%)のうち、反応不良と判定されたのは240頭(34%)
  • 抗生物質(グルココルチコイドなし)を併用した食餌を最初に処方された127頭(全体の13%)のうち、反応不良と判定されたのは71頭(56%)
  • グルココルチコイド(抗生物質あり・なし)を併用した食餌を最初に処方された153匹の猫(全体の16%)のうち、反応不良と判定されたのは100頭(65%)
  • 単変量解析で有意となった説明変数は4つ
    1. 加水分解食が最初に処方されたときの年齢
    2. 性別および去勢・避妊状況
    3. 治療前のサブカテゴリー
    4. 治療サブカテゴリー
  • 最初に食餌を処方された時の年齢が6歳以上の猫は、6歳以下の猫と比較して反応不良のオッズ比が増加(OR 1.81, 95% CI: 1.37-2.40, P < 0.001)
  • 治療前のサブカテゴリーでは、加水分解食の前に抗生物質を処方された猫とグルココルチコイドを処方された猫は、どちも処方されなかった猫と比較して、反応不良のオッズ比が増加
    • 抗生物質の処方あり:OR 1.55, 95% CI: 1.14-2.11, P = 0.005
    • グルココルチコイドの処方あり:OR 4.11, 95% CI: 2.00-8.43, P < 0.001)。
  • 加水分解食の前に抗生物質とグルココルチコイドの両方を処方された猫は、どちらも処方されなかった猫と比較して、反応不良のオッズ比が2.42倍(95% CI: 1.51-3.86, P < 0.001 )
  • 食事療法を最初に処方されたときに抗生物質やグルココルチコイドを同時に投与された猫は、抗生物質やグルココルチコイドを投与されなかった猫と比較して、反応不良のオッズ比が大きい
    • 抗生物質の併用あり:OR 2.08, 95% CI: 1.38-3.11, P < 0.001
    • グルココルチコイドの併用あり:OR 2.66 95% CI: 1.76-4.00, P < 0.001
  • 性別と去勢手術の有無、毛色、品種は、反応不良のオッズ比と関連あるとは言えない
  • ペアワイズ交互作用では、最終モデルにおける3つの変数の間に有意な関連は認めず
  • Hosmer-Lemeshow検定でモデルの適合度は良好(P = 0.812)
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結論と関連性

原因不明の慢性の嘔吐・下痢を呈する猫では、抗生物質やグルココルチコイド療法に頼る前に、まず単独療法として加水分解食を試すメリットがあることを示唆している。

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読んだ感想と疑問

  • 最初に食餌を処方された時の年齢が重要な因子であったことに驚いた。若い方が反応が良好なのか?それとも年を取ると反応が悪くなる別の因子がでてくるのか?どっちだろうか?
  • 食事療法前および食事療法と同時に抗生物質またはグルココルチコイドを投与すると、反応不良のオッズが上昇がすることに驚いた。因果関係については不明だけど、これが腸内細菌叢や粘膜免疫と関連していたら面白い。
  • 抗生物質またはグルココルチコイドの処方をどういった基準で行っていたのか?について追跡することができたら、より詳細な解析ができたかもしれない。
  • 独立変数の中に、疾患の重症度が含まれていなかったのが残念であった。抗生物質またはグルココルチコイドに関しては、疾患の重症度が交絡因子となっていた可能性は追求した方が良いと思う。
  • 今回は嘔吐と下痢を一括りにしていたけど、嘔吐と下痢は分ける(嘔吐のみ、下痢のみ、嘔吐と下痢)方が良いと思った。
  • 加水分解食を投与していない猫の対照群を設定した研究の実施も今後期待したい。
  • 本文では、オッズ比(OR)のことをオッズ(Odds)と表現していてビックリした。脱字(脱語)だとは思うけど。他の略語のように Odds ratio (OR)と定義したら良かったのにと感じた。
  • “Variables associated with a poor response with a P-value <0.2 in the univariable analysis were taken forward into multivariable analysis. Multivariable models were built using a backward stepwise elimination method. ” という記述が気になった。単変量解析で各独立変数の有意差を検定し、影響があると思われる独立変数を多変量解析に組み込むってやり方は良いのだろうか?(p-hackingではない?)でも、冒頭で先行研究が少ないことを指摘しているから、正しいモデル構築のためのスクリーニングならアリ?

2024年1月8日 修(獣医師&獣医学博士)

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