- レプトスピラ菌は約100年前に日本人が発見
- 感染源はレプトスピラ菌を保菌するネズミ類
- 犬用とヒト用のワクチンがあるけれど油断は禁物
こんちには!
獣医師のアッチーブです。
この記事ではレプトスピラ症を紹介します。
聞いたことがない人も多いかもしれませんが、意外と日本人に関わりのある感染症ですよ。
近年の発生件数は減少傾向ですが、人だけでなく犬も感染・発症すると重症化することがあるので、飼い主さんには知っておいて欲しい病気です。
この記事のゲスト:由美子さん
60代の主婦。子供たちは自立し、余裕ができたので猫を飼い始めた。
レプトスピラ症の基礎知識
レプトスピラ症は、およそ100年前に日本人医師らが発見したレプトスピラ菌が原因の人獣共通感染症で、人ではワイル病とか秋やみ(秋季レプトスピラ病)と呼ばれています。
あまり馴染みのない病名ですが、千円札に描かれている野口英世が研究していた病気の1つがレプトスピラなんですよ!
黄熱だと思っていた病気は、実はワイル病でした。
犬では毎年30件前後の報告が、人では毎年20~40件の報告があります[1-2]。
衛生環境の向上や農業の機械化などのおかげで日本での患畜数および患者数は減少傾向にありますが、レプトスピラ菌に感染する機会は身近に存在していることを忘れないでください。
レプトスピラ症の原因
レプトスピラ科レプトスピラ属に分類されるらせん形状をした細菌の感染が原因です。
齧歯類(ネズミ類)はレプトスピラ菌に感染しても無症状のまま経過して菌を保有し続けます。
このような動物を保菌動物(レゼルボア)と呼びますが、保菌動物の尿中にはレプトスピラ菌が存在します。
保菌動物の尿が水や土壌を汚染し、それに触れた人や犬・猫が感染します。
大雨やそれに続く洪水が発生すると、汚染された水や土壌が拡散されるため、レプトスピラ菌の被害が出やすいと考えられています[3]。
犬や猫の保菌動物になる
犬や猫もレプトスピラ菌の保菌動物になることが分かっています[4-6]。
ただ、犬や猫から人(飼い主や獣医療関係者)への感染報告は確認されていません[7-8]。
もし、飼育している犬や猫がレプトスピラ症になっても過剰に恐れる必要はないでしょう。
モモンガからの感染報告はある
犬や猫から人への感染報告は確認されていませんが、アメリカモモンガから感染報告はあります[9]。
動物取扱業に従事していた者がペット用に輸入したアメリカモモンガからレプトスピラに感染して発症しました。
2005年9月1日以降は、ネズミ類の輸入の際に輸出国政府の発行する衛生証明書が必須となっています。
そのため、現在輸入されているネズミ類はレプトスピラ菌の感染のおそれはありません。
でも、不適切な環境で飼育すると保菌動物になる可能性がありますので、適切な飼養をお願いします。
レプトスピラ菌の分類
分類は非常に複雑なので詳細は省きますが、大まかに3群に分類されます。
- 人や動物に病気を起こす病原性レプトスピラ
- 環境中にのみ生息する非病原性レプトスピラ
- 病原性と非病原性の中間型
種よりも血清群と血清型が大切
生物としてレプトスピラ菌を分類する場合はDNAの塩基配列に基づく種の概念が大切です。
一方、感染源の推定や臨床症状の程度は、細菌の種類よりも細菌の表面にある糖鎖の違い(血清群・血清型)が重要となります。
だから、病原性レプトスピラを分類する場合は血清群・血清型で行うことが多いです。
ちょっと難しいね…
もう少し分かりやすく説明して。
人の血液型をイメージしてください。
同じ人間でもA型、B型、O型、AB型がいますよね!
そうですねぇ~
そのイメージをレプトスピラ菌にも当てはめましょう。
同じレプトスピラ菌でも型が異なる場合があるんです。
なるほどね~
その違いが診断とか治療では重要になってくるのね!
その通りです!
病原性レプトスピラの血清群・血清型の例
ちょっとここから複雑になりますよ~
病原性レプトスピラの血清群は24種類、血清型は250以上が報告されています[10]。
ココで血清群と血清型をいくつか紹介します。
血清群 | 血清型 |
Australis* | Bratislava, Lora, Jalna, Muenchen |
Autumnalis* | Autumnalis, Bim |
Canicola* | Canicola |
Grippotyphosa* | Grippotyphosa |
Icterohaemorrhagiae* | Icterohaemorrhagiae、Copenhageni |
Pomona* | Mozdok, Pomona |
Sejroe | Hardjo, Saxkoebing, Sejroe |
Hebdomadis* | Hebdomadis、Kambale、Nona、Maru |
型が異なるレプトスピラ菌がたくさんいるのは分かったわ…
でも、どうして飼い主はこの情報をしっている必要があるの?
質問ありがとうございます。
*が付いているものがありますよね?
これは日本の犬で確認されている血清群[11-12]です。
うん。それで?
後述しますが、犬用のレプトスピラワクチンが対応しているのは、Canicola・Grippotyphosa・Icterohaemorrhagiae・Pomonaだけです。
ってことは、ワクチンでは防げない型もあるってこと?
そういうことです!
その事実を知っておいてほしかったので紹介しました。
なお、獣医療の現場では血清群のことを血清型と呼ぶ慣習がありますが、人の医療では血清群・血清型を区別しています。
人獣共通感染症の原因となる病原体なので獣医療でも区別する必要があると思います。
残念ながら、現時点では整合性をとる動きはありません。
レプトスピラ症の症状
猫は無症状であることが多いので、犬の症状と人の症状をまとめますね。
犬の症状
- 軽症例:発熱・嘔吐・下痢・脱水・目の充血・黄疸など
- 重症例:血色素尿・粘膜出血・黒色便・紫斑など
- 敗血症性ショック:発症から数日以内に死亡
人の症状
- 軽症例:非黄疸型(秋やみ or 秋季レプトスピラ病)では、発熱・咽頭痛・鼻水・下痢などの感冒様症状のみ
- 重症例:黄疸型(ワイル病)では、突然の高熱・全身倦怠感・筋肉痛・目の充血などに始まり、次第に黄疸・肺出血・腎障害へと進行します。治療が遅れると死亡
犬も人も重症例では死んじゃうこともあるのね…
そうなんです。
だから、レプトスピラ症を甘くみてはいけません!
レプトスピラ症の検査・診断【犬や猫の場合】
実験室レベルでは、血液や尿を検査材料とした抗体検査・培養検査・遺伝子検査による診断が可能です。
しかし、動物病院レベルでの実施は難しいでしょう。
ただ、検査サービスを提供している機関や企業はありまよ。
スクリーニング検査
レプトスピラ症を疑った獣医師は血清 or 血漿を材料とした抗体検査を依頼します[13-14]。
ワクチン接種歴などがあり抗体検査が不適切と判断された場合は、全血・尿を材料としたPCR検査を依頼するでしょう[15]。
血清型を特定する検査
抗体検査またはPCR検査のどちらかで陽性判定が出た場合は、血清型(正しくは血清群)を特定する検査を依頼する必要があります[14,16]。
法律に基づく届出
日本には家畜伝染病予防法という法律があります。
犬のレプトスピラ症を診断した獣医師は、この法律に基づいて家畜保健衛生所に届出しなければなりません。
そして、届出にはレプトスピラ症を疑った場合の「疑症」とレプトスピラ症の血清型(正しくは血清群)が確定した場合の「真症」があります。
そのために必要な検査の大半が外注検査で、その費用も高くなるのですが、法律で決められていることなのでご理解ください。
レプトスピラ症の治療【犬や猫の場合】
抗菌薬の投与と輸液療法が推奨されています[16]。
肝障害に対する治療として利胆薬や肝庇護薬が使用される場合もあるようですが、その是非については分かりません。
レプトスピラ症の予防
レプトスピラ菌に対するワクチンは犬用と人用が開発されていますが、猫用はありません。
犬に関しては、抗体価はワクチン接種後12ヵ月間にわたって低下することが報告されていますので、年に1回の接種が望ましいでしょう[17-18]。
ただ、ワクチンの血清群と実際に感染した血清群が異なると予防効果が発揮されないことが指摘されています。
近年は、ワクチンでは対応していない血清群(Hebdomadis、Australis、Autumnalis など)による感染も確認されています[12]。
ワクチン接種をしているから大丈夫と過信せず、感染源となりうる水源(農地の用水路や整備されていない河川敷など)近づかせないようにしましょう。
また、ヌートリアやアライグマなどの野生動物が飼育環境に侵入しないように対策をとることも大切です[19-20]。
犬や猫からの感染について
私の知る限り犬や猫から人(飼い主や獣医療関係者)への感染報告は確認されておりません[7-8]。
もちろん、それだけで「犬や猫からは感染しません」と断定することはできません。
ただ、飼育している犬や猫がレプトスピラ症になっても必要以上に恐れる必要はないでしょう。
担当獣医師の指示に従って対応してください。
尿中にはレプトスピラ菌が排泄される
大切なことは「感染動物の尿中にはレプトスピラ菌が排泄される」ことを知っていることです。
尿のPCR検査が陰性になるまでは尿に直接触れないようにしましょう。
そして、もし体調が悪化したら医療機関を受診し、同居犬または猫がレプトスピラ症であったことを担当医に伝えてください。
医療機関を受診する方へ
体調不良などで医療機関を受診する方にお願いがあります。
医療機関の担当者に「ペットの飼育状況」を必ず報告してください。
レプトスピラ症は特徴的な症状がなく、初期診断は困難な病気の1つなので、見過ごされる可能性があります。
事前に「ペットの飼育状況」を伝えることができれば、そのような見過ごしを減らせるでしょう。
よろしければ、以下のフォーマットをご利用ください。
また、河川でのレジャー活動や農作業に伴う感染が多数報告されています。
医療機関ではそのような活動の有無も合わせて伝えましょう!
レプトスピラ症のまとめ
レプトスピラ症についてまとめました。
近年、日本での患畜数および患者数は減少傾向にありますが、レプトスピラ菌に感染する機会は身近に存在しています。
かかりつけの獣医師とよく相談して、年1回のレプトスピラワクチン接種を検討してみましょう。
また、飼育環境に野生動物が侵入しないような対策をするとともに、感染源となりうる水源で遊ばせないようにしましょう。
参考文献
[1] 農林水産省 監視伝染病の発生状況
[2] 国立感染症研究所 感染症発生動向調査週報(IDWR)
[3] 松本道明, et al. 集団発生したレプトスピラ症―高知県. IASR, 2012, 33: 14-15.
[4] BHARTI, Ajay R., et al. Leptospirosis: a zoonotic disease of global importance. The Lancet infectious diseases, 2003, 3.12: 757-771.
[5] ZAIDI, Sara, et al. Urinary shedding of pathogenic Leptospira in stray dogs and cats, Algiers: A prospective study. PLoS One, 2018, 13.5: e0197068.
[6] RODRIGUEZ, J., et al. Serologic and urinary PCR survey of leptospirosis in healthy cats and in cats with kidney disease. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2014, 28.2: 284-293.
[7] BARMETTLER, Reto, et al. Assessment of exposure to Leptospira serovars in veterinary staff and dog owners in contact with infected dogs. Journal of the American Veterinary Medical Association, 2011, 238.2: 183-188.
[8] GUAGLIARDO, Sarah Anne J., et al. Despite high‐risk exposures, no evidence of zoonotic transmission during a canine outbreak of leptospirosis. Zoonoses and public health, 2019, 66.2: 223-231.
[9] MASUZAWA, Toshiyuki, et al. Leptospirosis in squirrels imported from United States to Japan. Emerging infectious diseases, 2006, 12.7: 1153.
[10] 小泉信夫, et al. イヌのレプトスピラ感染. IASR, 2016, 37: 111-112.
[11] 森研一, et al. 国内の農場犬および浮浪犬における Leptospira interrogans 血清型 Grippotyphosa および Pomona の抗体保有状況の疫学調査. 家畜衛生学雑誌 2010 35 (4):163-168.
[12] KOIZUMI, Nobuo, et al. Molecular and serological investigation of Leptospira and leptospirosis in dogs in Japan. Journal of Medical Microbiology, 2013, 62.4: 630-636.
[13] CURTIS, K. M., et al. Performance of a recombinant LipL32 based rapid in-clinic ELISA (SNAP® Lepto) for the detection of antibodies against Leptospira in dogs. International Journal of Applied Research in Veterinary Medicine, 2015, 13.3.
[14] REAGAN, Krystle L.; SYKES, Jane E. Diagnosis of canine leptospirosis. Vet Clin North Am Small Anim Pract, 2019, 49.4: 719-731.
[15] MIDENCE, J. N., et al. Effects of Recent L eptospira Vaccination on Whole Blood Real‐Time PCR Testing in Healthy Client‐Owned Dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2012, 26.1: 149-152.
[16] SCHULLER, Simone, et al. European consensus statement on leptospirosis in dogs and cats. Journal of Small Animal Practice, 2015, 56.3: 159-179.
[17] WILSON, Stephen, et al. Duration of immunity of a multivalent (DHPPi/L4R) canine vaccine against four Leptospira serovars. Vaccine, 2013, 31.31: 3126-3130.
[18] MARTIN, L. E. R., et al. Vaccine‐associated Leptospira antibodies in client‐owned dogs. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2014, 28.3: 789-792.
[19] KOIZUMI, Nobuo, et al. Isolation and characterization of Leptospira spp. from raccoons in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 2009, 71.4: 425-429.
[20] 村田亮, et al. 大阪のヌートリアにおけるレプトスピラ浸潤状況調査. 日本細菌学雑誌, 2020, 75.1: 115-115.
2024年2月21日 アッチーブ(獣医師&獣医学博士)
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