ペットから人の薬剤耐性菌?飼い主さんが知るべきAMR問題の詳細と今すぐできる対策法
- 日本でも薬剤耐性菌によって年間8,000人以上が死亡
- 薬剤耐性(AMR)対策アクションプランの概要
- 人の医療で問題となる薬剤耐性菌がペットでも発見
- 獣医療で薬剤耐性菌が問題となる理由
- 薬剤耐性菌対策で飼い主さんができること
こんちには!
獣医師のアッチーブです。
今回は薬剤耐性菌の話をしようと思います。
薬剤耐性(Anti-microbial resistance [AMR])とは、抗菌薬が効かなくなってしまう現象です。
そして、抗菌薬が効かなくなった細菌のことを薬剤耐性菌と呼んでいますよ。
この菌が広がると、ペットの治療が難しくなります。
また、薬剤耐性菌がペットから飼い主に感染すれば、人の健康に影響を与えるかもしれません。
この記事では、ペットの飼い主さんに知ってほしい「薬剤耐性菌」の問題について解説しますね!
この記事のゲスト:大翔さん
高校2年生。獣医師に憧れ、獣医学部(獣医学科)への進学を目指している。
AMR&薬剤耐性菌は国際的な問題
抗菌薬って、僕たちが感染症にかかったときに助けてくれる薬ですよね?
はい、その通りです。私たちが細菌感染症で苦しんでいる時に、原因となる細菌を退治してくれる薬が抗菌薬です。
AMRになると、それが出来なくなっちゃうんですか?
実はそうなんです。すでに、AMRで抗菌薬が効かなくなったAMR菌の増加は国際的な重要課題になっています。
えっ!そうなんですか?
例えば、AMR菌による死亡者数が2022年から2050年にかけて大幅に増加すると予想した論文[1]が出ていて、年間死亡者数は191万人だそうです。
2023年の日本の年間死者数が約160万人[2]だったので、それを上回ってますね。
それは深刻ですね…
もう少し具体的な事例を紹介しますね。
ウクライナの戦争で、負傷した入院患者の多くがAMR菌に感染してるって報告[3]があります。AMR菌が治療を困難にしているそうです。
戦争の裏で、そんな問題も起きてるんですね。日本のAMRの影響はどうなんですか?
日本でもAMR菌によって年間8,000人以上が死亡していると報告されていますね[11]。
具体的な事例を知ると深刻さが分かりますね…
日本のAMR対策
AMR菌の増加について、何か対策はされてるんですか?
世界保健機関(WHO)は2015年に「薬剤耐性に関するグローバルアクションプラン(2016-2020)」を策定し、各国にAMR対策の推進を求めました。
それで、日本は何かしているんですか?
あまり知られていませんが、日本も2016年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)[4]」を発表し、AMR対策を推進していますよ。
具体的にはどんなことをやってるんですか?
アクションプランは次の6分野で構成されていて、具体的な方策が立てられています。
- 普及啓発・教育:国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研
修を推進 - 動向調査・監視:薬剤耐性および抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変
化や拡大の予兆を適確に把握 - 感染予防・管理:適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止
- 抗微生物剤の適正使用:医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進
- 研究開発・創薬:薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進
- 国際協力:国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進
それで、AMR菌は減ったんですか?
プランでは成果指標(数値目標)が設定されていて、抗菌薬の使用量は減っています。
でも、各種AMR菌の耐性率は、一部菌種は減少傾向ですが、多くは横ばい or やや増加傾向って感じですね。引き続き、危機感をもって取り組む必要があると思います。
でも、それは2020年で終わったんでしょ?
いいえ。2023年には「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)[4]」が新たに策定され、引き続きAMR対策を推進していますよ。
ペットもAMR菌のキャリアに
このサイトはズーノーシスの情報を提供するところですよね。どうして、このサイトでAMR菌の話なんですか?
イイ質問ですね!実は、一部のAMR菌は動物から人にうつることが分かっています。
そうなんですね!具体的にはどんな動物から人に来るんですか?
ちょっと前まで、食品を介して人にうつるAMR菌が国際的に問題視されてました。でも近年は、ペットを介した感染経路も注目されているんですよ。
つまり、人だけでなく、ペットでも薬剤耐性菌は問題になってるんですね?
はい!例えば、耳の感染症や皮膚炎、膀胱炎でAMR菌が原因となることがありますよ。
また、人の医療現場でAMR菌感染症の原因となる大腸菌(ST131)[5,6] やクレブシエラ属菌(ST11・ST15・ST147)[7] が犬&猫から分離されています。
人で問題になっているAMR菌が犬や猫でも見つかってるんですね。
そうなんです。まだ具体的な健康危害は報告されていないのが幸いですね。ただ、獣医師としては最悪のシナリオも考慮しなければなりません。
最悪のシナリオ?
それらのAMR菌が飼い主やその家族・地域の人へ感染して健康危害を与えることです。
もしそうなったら、どうなるの?
人の治療で使うことができる抗菌薬の選択肢を狭めることになります。
「選択肢が狭まる」だけですか?使用できる抗菌薬が残ってるなら、「最悪」は言い過ぎなような…
実は、その「人の医療で問題となるAMR菌」は、多くの種類の抗菌薬に耐性を示す多剤耐性菌なんですね。一般的な抗菌薬がすでに効かない、厄介な菌なんですよ。
へぇ~。それで?
これまで「有効」だった抗菌薬が使えないので、残された抗菌薬の選択肢がすでに少ないのが現状です。
それでも、使える抗菌薬は、まだあるんですよね?
「今」はありますね!
「今」?「将来」は効かないかもしれないんですか?
はい。後半で触れますが、「人医療で『極めて重要』な抗菌薬」を使う臨床獣医師もいます。
その抗菌薬に対する耐性菌がでてきたら、どうでしょうか?
確かに「最悪」ですね…
そうなんです!だから、AMR菌をペットから人(人からペット)に広げないために、家庭内で人-犬&猫間のAMR菌の感染を防ぐことが重要なんです。
納得!これは飼い主さんもAMR菌について知っておく理由になりますね。
AMRが起きるメカニズム(薬剤耐性菌が発生する原因)
ところで、どうして、AMRが起きるんですか?
その説明もしておきましょう!「抗生物質」って聞いたことありますか?
抗菌薬のことでしょ?
似てるけど、ちょっと違いますね。細菌や真菌が作る抗菌薬を「抗生物質」と呼びます。
へぇ~細菌が作るんだ!どうして?
それは自分以外の細菌をやっつけるためです。栄養や増殖するエリアの奪い合いとなるので、自分とは別の種類の細菌が増えると困るんですよ!
なるほど~。抗生物質を作る細菌は、抗生物質が効かないの?
実は、抗⽣物質を作る細菌は、その抗生物質に対する耐性を持っているんですよ。だから、自分が作った抗生物質には耐えることができるんですね!
へぇ~上手くできてますね!
でしょ!でもね、別の種類の細菌もやられっ放しではありません。今度は、別の種類の細菌も抗生物質に耐えるようになります。
それがAMRですか?
その通り!細菌は自分自身を守るために、抗生物質に対する耐性を持つことができるんです。これを耐性遺伝子の獲得と呼びますよ!
すごい攻防が見えない世界で起こってるんですね!
面白いでしょ!でね、この耐性遺伝子の獲得は⼀定の確率で常に起こってるんですよ。
抗生物質の存在の有無とは関係なく起こるんですね?
その通り!だから、抗生物質を作る細菌が増えてきても、AMRじゃない細菌は死んじゃうけど、AMR菌は有利に増殖できるんだよね~
なんか、生物学で勉強した選択淘汰みたいですね。
まさにその通りですね。抗生物質に耐えられる細菌だけが⽣き残って増えることを「AMR菌が選択される」と表現しますよ!
へぇ~!
AMRが起きるメカニズムは理解できたかな?
はい!
OK!それじゃ、さっきまでの「抗生物質を作る細菌」を医師とか獣医師に置き換えて考えてみようか!
なるほど~!医師や獣医師は抗菌薬を使いますもんね!
察しがイイですね~その通りです!
医師や獣医師は抗菌薬を使って細菌の増殖を抑え込もうとするのですが…
抗菌薬の使い方を間違えると、薬剤耐性菌を選択して増やしてしまうんですね。
獣医療で薬剤耐性菌が問題となる背景
「抗菌薬の使い方を間違える」ってのが気になるんですけど…
やっぱり気になりますよね。飼い主さんには、獣医療でAMR菌が問題となっている理由も知って欲しいので簡単にお話しますね!
私は、2つの領域で、4つの問題点があると考えています。
- 生産動物(牛・豚・鶏など)領域
- 成長促進目的で抗菌薬の使用
- 伴侶動物(主に犬・猫)領域
- 承認薬が少ないので人体用抗菌薬が適応外使用される
- 根拠不明な経験的な治療
- 飼い主さん側の問題
成長促進目的で抗菌薬の使用
家畜の飼育において成長促進のために抗菌薬が使用されていました。
成長促進のため?
低用量の抗菌薬を飼料に混ぜると、動物の成長速度が上がるんですよね。それが経済的に有利なので、1950年代ごろから世界各国で使われてきました。
それが原因でAMR菌が増えたってこと?
はい。これにより動物体内で耐性菌が生まれ、それが食肉を通じて人に広がることが問題となったのです。
今でも続いているの?
さすがに今ではやっていない国が大半ですね!
国連機関が定める「AMRの最小化および抑制のための実施規範[8] でも、「医学的に重要でないと考えられる抗菌剤を成長促進に使用すべきではない」と規定していますしね。
承認薬の少なさに起因する人体用抗菌薬を適応外使用
次の問題は承認薬の少なさです。
犬・猫の獣医療では動物用医薬品の抗菌薬の種類が少ないので、人用の抗菌薬を適応外使用することが多いんですよね[9]。
法律上の問題は無いんですよね?
はい。獣医師が治療のために止むを得ないと判断する場合は、未承認薬も使えますよ。
それなら仕方ない気もするけれど…何が問題ですか?
2つの問題があります。
①人の医療で「極めて重要」と位置付けされている抗菌薬も使える。
②適用外使用における抗菌薬の情報が少なく、適切な用法・用量の設定が難しい。
どっちもヤバそうですね。何か対策はありますか?
現状はないですね。例えば、EUでは、人の治療にのみ使用できる抗菌薬リストがあり、犬・猫を含む動物全般にそれを使用することを禁止しています。でも、日本にはそういう規制はありません。
適用外使用のためにデータが少なく、適切な使い方が難しいため、誤用されるリスクも高いです。そのせいで、人の治療において「極めて重要」な抗菌薬に対するAMR菌が選択されるかもしれません。
根拠不明な経験的な治療
3つ目は、獣医師が過去の経験や勘に基づいて、科学的根拠やガイドラインを無視する「経験的な治療」ですね。これが一番の問題だと思います。
科学的根拠やガイドラインを無視って大丈夫かな…どういう意味ですか?
日本では、農林水産省から「愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き」が発行されています[10]。
マニュアルみたいなものですか?「慎重使用」って厳しめの表現ですね。
そうですね。「慎重使用」については「抗菌薬が必要と認められた場合にのみ適切な抗菌薬を適切な投与方法で使用すること」と説明しています。
このマニュアルがあれば問題ないと思うんですけど?
問題はこのマニュアルを活用する臨床家が少ないことです!少なくとも私は、このマニュアルを活用している獣医師に会ったことがありません。
えっ!何でですか?
どの獣医師(院長)も、理由を聞くと怒ったり、無視されるだけだったので、ちゃんとした理由は聞けてません。
皆、職人気質な院長だったので、おそらく、これまで感覚と経験を優先したいんだと思います。
具体例にはどんな感じなんですか?
知りたいです?ちょっとだけ紹介しますね。
マニュアルを活用しない臨床家①
最初に処方した抗菌薬で治療反応が乏しいのに、細菌学的検査を実施せずに別の抗菌薬を処方する院長がいました。
それってAMRの可能性が高いですよね?
そうですね。追加検査しない理由を聞くと、「時間がかかる」「飼い主に金銭的な負担がかかる」と言ってました。
他の抗菌薬もAMRの可能性がありますよね?最終的にどうなったんですか?
その通りです。案の定、効果が得られず、その後も検査することなく、最終的に人の医療で重要な抗菌薬を使ってました。
ちょっと信じられないですね…
私もビックリしました。その抗菌薬は原則として使用は控えるべきと考えられる薬だったので、それを指摘すると…
こんな感じで、私の指摘には耳を貸してくれませんでした。
マニュアルを活用しない臨床家②
抗菌薬の予防的投与をする院長もいました。
それはダメなんですか?
「有効である」という科学的根拠が少ないんですよ。また、AMR菌を増やす要因と言われています。
その院長は、どうして予防的投与をしてたんですか?
それで「辛い経験をしたから」って言ってましたね。
辛い経験?
抗菌薬を投与しなかったら、悪化したという意味ですかね?
詳細、分からないんですか?
はい。カルテを書かない院長だったので、何もその記録が残ってなかったんですよ。
おそらく、診察室・手術室・入院室の衛生状態が悪かったので、それに起因する二次感染だと思います。
だったら、環境の整備が先じゃないんですか?
その通りです!私もそう思ったので、それを伝えたら、めちゃ怒られました。
なんでですか?
分かりません。新人に図星を突かれてイラっとしたのかもしれませんね。
マニュアルを活用しない臨床家③
最初から二次選択薬を使う院長がいました。
「二次」は最初の抗菌薬が効かなかったときに使うって意味ですよね?
そうです。一般に、二次選択薬は細菌学的検査の結果を踏まえて使うもので、常用はしません。
どうして、そんなことするでんすか?
分かりません。その動物病院のスタッフは「飼い主さんの負担軽減かな?」と言ってました。
どういう意味ですか?
二次選択薬の中には、1日1回で良いとか2週間効果が持続するものがあります。飼い主さんは、1日3回とか5日後に再診みたいなプランよりもラクなので喜びます。
おそらく、その院長は、これを使用基準にしていたんでしょうね。
飼い主の理解を得やすいってことですね。たしかに、サービス業だから飼い主さんの満足度は大切かもだけど…なんか違いません?
私もそう思います。専門知識を持つ獣医師が飼い主さんにちゃんと説明しないとダメだと。
でも、実際にそうはならないんですよね。
残念ながら。私は経営者ではないのでよく分かりませんが、どうやら回転率が関係しているみたいです。「1日あたり何件の診察をこなすか?」ってやつですね。
どういう意味ですか?
動物病院は薄利多売が多いので、一日の診察件数が大切です。1人の飼い主に理解が得られるまで丁寧に説明を繰り返すことは現実的ではないと考えるみたいですね。
う~ん。なんかモヤモヤする。
でも、それを認めちゃうとAMR問題は加速すると思うので、私はダメだと考えます。
その時も「それはおかしい」と思ったので院長に質問したら、案の定、期限が悪くなり、しばらく無視されました。
アッチーブさん、世渡りが下手くそですね(笑)
飼い主さん側の問題
最後は飼い主さんの問題です。
例えば、動物病院で処方された抗菌薬を最後まできちんと飲ませてくれない飼い主さんがいます。
どうしてですか?飲ませないと治らないんですよね?
色々な要因があります。ペットが薬を吐き出すので諦めたとか、症状が落ち着いたから飲ませるのを止めたとか。
なるほど。
獣医師側の説明不足もあると思うので、飼い主さんが一概に悪いわけではありませんけどね。
他にどんな飼い主さんがいましたか?
自分が病院でかかった時にもらった抗菌薬をペットに使う飼い主さんがいました。
えっ!?どうしてそんなことを?
その人は看護師さんで、動物病院で使っている薬が人用で、自分が使っているのと同じだと気付いたそうです。
「同じ薬だから問題ないだろう」って感じですか?
そうみたいですね。この人に限らず、過去に自分が処方された抗菌薬を持っている人は多いですね。
飲み残しで余ったのがもったいないってことですか?
たぶん、そうですね。「飲み残した抗菌薬をとってある&体調の悪いときに飲んだことがある」って人も一定数いて[12]、それをペットにも適用する人がいるんですよ。
AMR菌対策で飼い主さんができること
ペットの飼い主がAMR菌対策で出来ることはありますか?
飼い主さんが出来ることは3つあると、私は考えています。
- 日常生活で注意すること
- 動物病院選びで注意すること
- 検査結果や処方された薬の情報を控えること
日常生活での注意
これは、AMR菌に限った話ではありませんが、口移しや食器の共有を止めて、ペットを触った後や排泄物を処理した後に必ず手洗いをすることが大切ですね。
特別な対応は必要ないんですね!
AMR菌に特化した対応では、次の2つが重要です!
①抗菌薬は、必ず処方された期間中、しっかりと最後まで飲ませましょう。
②治療が終わっても、再診日を忘れずに受診し、再発がないか確認することも大切です。
なるほど。抗菌薬の投与が難しい場合は、相談しても大丈夫ですか?
もちろんです!飼い主さんの技術的な問題やペットの性格の問題など色々理由が考えられるので、ちゃんと担当獣医師に相談してくださいね。
動物病院選びでの注意
AMR菌の問題を理解している動物病院を選んでください。
どうやって、それを判断するんですか?
治療として抗菌薬を使用するならば、「細菌培養検査」とか「薬剤感受性検査」が必要になります。
AMR対策に関心がある動物病院なら、その説明をするってことですね?
はい。ペットの状態が安定していれば、初回は経験的に抗菌薬を処方することもありますが、これは一般に許容されています。でも、効果が見られない場合は、細菌学的な検査を行うことが重要です。これを提案してくれる病院を選びましょう。
検査をせずに別の薬を提案してくる病院は注意が必要ですね。
そうですね。色々な理由をつけて、検査をやらない臨床家をたくさん見てきました。これは、AMR問題・対策に関心がない動物病院の特徴だと思います。
他に注意点はありますか?
できれば、検査会社の確認もして欲しいですね!
どういう意味ですか?
「細菌培養検査」や「薬剤感受性検査」を人用の検査会社に外注する動物病院があります。
動物の検査を人用の検査会社にですか?それ、結果は信用できるんです?
できないですね。人用の検査会社は、動物の基準に基づいた正確な結果を出せないことがあります。正しい結果を得るには、動物専用の検査会社を利用する必要があります!
なんでそんなことするんですか?
費用が安いんですよね!少しでも飼い主さんの負担を軽くしたいんだと思います。
でも、正しい結果が得られないんですよね?
はい。だから、私は無駄遣いだと思います。
なので、獣医師が検査の提案をしてきたら、「それは動物用の検査会社ですか?」と質問してください。
それに対して、「人用の会社です」とか「動物の検査もできる」みたいな回答なら、他の動物病院を検討しましょう。
検査結果や処方された薬の情報を収集
これは飼い主さんが医療機関を受診するときに重要だと思います。
すでに、人の医療現場で問題となっているAMR菌が犬・猫から見つかっています[5-7]。
そうでしたね…
まだ、具体的な健康危害は起きていません。ただ、私は獣医師として、今後を注視する必要があると感じています。
飼い主さんが病院で使うことができる抗菌薬が制限されちゃうかもですもんね…
はい。だから、ペットで処方された抗菌薬の情報や薬剤感受性検査の結果を医療機関と共有することが大切だと思うんです。
なるほど!でも、どうやって情報を集めるんですか?薬の名前とか分からないですよ。
抗菌薬の名前や処方内容は、薬のラベルや獣医師に確認してメモしておきましょう。
もし難しい場合は、薬の写真を撮って記録に残すこともおすすめです。見た目で分かる場合もありますので。
できれば、何かまとめるフォーマットみたいのがあると嬉しいですね。
簡単ですが、記載できるフォーマットを作りましたので、良ければご利用ください。
【まとめ】飼い主に知って欲しいAMR菌のこと
今回は、ペットの飼い主さんに知ってほしい「AMR菌」の問題についてまとめました。
AMR菌は、ペットの健康だけでなく、人間にも影響を及ぼす重大な問題です。
飼い主さんには、以下の4点を気をつけてください!
- 日常生活では、ペットとの過剰なスキンシップを避け、手洗いを徹底する
- 処方された抗菌薬は必ず指示通りに最後まで与え、治療効果を確認するために再診を忘れない
- 動物病院選びでは、細菌培養検査や薬剤感受性検査を実施する病院を選ぶ
- ペットで使用された抗菌薬の情報や検査結果を控え、必要な場合は医療機関と共有する
こうした対策を取ることで、人-ペット間のAMR菌の拡散を防ぎ、自身とペットの健康を守ることができるでしょう。
参考文献
[1] NAGHAVI, Mohsen, et al. Global burden of bacterial antimicrobial resistance 1990–2021: a systematic analysis with forecasts to 2050. The Lancet, 2024, 404.10459: 1199-1226.
[2] 厚生労働省HP 人口動態統計速報(令和5年12月分) 2024年2月27日
[3] LJUNGQUIST, Oskar, et al. Highly multidrug-resistant Gram-negative bacterial infections in war victims in Ukraine, 2022. The Lancet Infectious Diseases, 2023, 23.7: 784-786.
[4] 首相官邸HP 国際的に脅威となる感染症対策の強化のための国際連携等関係閣僚会議
[5] MAEYAMA, Yoshihiko, et al. Prevalence of ESBL/AmpC genes and specific clones among the third-generation cephalosporin-resistant Enterobacteriaceae from canine and feline clinical specimens in Japan. Veterinary microbiology, 2018, 216: 183-189.
[6] HARADA, Kazuki; NAKAI, Yuka; KATAOKA, Yasushi. Mechanisms of resistance to cephalosporin and emergence of O25b‐ST131 clone harboring CTX‐M‐27 β‐lactamase in extraintestinal pathogenic Escherichia coli from dogs and cats in Japan. Microbiology and immunology, 2012, 56.7: 480-485.
[7] SATO, Toyotaka, et al. Tigecycline susceptibility of Klebsiella pneumoniae complex and Escherichia coli isolates from companion animals: the prevalence of tigecycline-nonsusceptible K. pneumoniae complex, including internationally expanding human pathogenic lineages. Microbial Drug Resistance, 2018, 24.6: 860-867.
[8] CXC 61-2005, Code of practice to minimize and contain foodborne antimicrobial resistance, TFAMR, 2021
[9] MAKITA, Kohei, et al. Current status of antimicrobial drug use in japanese companion animal clinics and the factors associated with their use. Frontiers in Veterinary Science, 2021, 8: 705648.
[10] 農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課「愛がん動物における抗菌薬の慎重使用に関するワーキンググループ」編:愛玩動物における抗菌薬の慎重使用の手引き―2020―
[11] TSUZUKI, Shinya, et al. National trend of blood-stream infection attributable deaths caused by Staphylococcus aureus and Escherichia coli in Japan. Journal of Infection and Chemotherapy, 2020, 26.4: 367-371.
[12] AMR臨床リファレンスセンター「抗菌薬意識調査レポート2020」
2024年10月13日 アッチーブ(獣医師&獣医学博士)
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