- 日本でも人獣共通感染症は発生
- 犬や猫などのペットも人獣共通感染症の感染源
- 人獣共通感染症に関する知識を持つことは飼い主さんの義務

こんちには!
獣医師のアッチーブです。
ペットは私たちの生活に癒しと喜びをもたらしてくれる、大切な家族の一員です。
散歩に出かけることで自然と運動習慣が身についたり、愛らしい仕草や存在そのものが、日々の孤独感を和らげてくれることもありますよね。
「ペットを飼うことのメリット」は数え切れないほどある一方で、見落とされがちな側面も存在します。
実は、ペットとの生活には「楽しいだけでは済まされないデメリット」も含まれているのです。

その中でも特に知っておきたいのが、人獣共通感染症(ズーノーシス)。
これを正しく理解し、予防することは、飼い主さんだけでなく、ペットや家族全員の健康を守るために欠かせません。

とても大切な内容です。
この記事では、人獣共通感染症の具体的な内容や、安心してペットと暮らすためのポイントをわかりやすく解説します。
大切な家族と楽しく安全な毎日を送るために、ぜひ最後までお読みください!
この記事のゲスト:翔太(しょうた)さん
30代前半の会社員で、自宅ではペットとして犬と猫を1頭ずつ飼育中
人獣共通感染症(ズーノーシス)とは?

こんにちは!
先ず、人獣共通感染症(ズーノーシス)って何なのか教えてください!

こんにちは!
そうですね!先ずは言葉の説明から始めますね。
脊椎動物と人の間で感染が成立する病気のことを「人獣共通感染症」とか「ズーノーシス」と言います。
脊椎動物とは、哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類のことです。

翔太さんが飼育しているワンちゃんやネコちゃんは哺乳類なので脊椎動物ですよ!

なるほど~
世界保健機関(WHO)は、人獣共通感染症(ズーノーシス)を「脊椎動物から人に自然に感染する病気や感染症」と定義しています。
だから、人獣共通感染症を「動物由来感染症」と呼ぶ場合もあります。

でも、「動物→人」だけではなく「人→動物」の場合もあるので注意が必要です。

へぇ~
どんな病気が人から動物へ感染するんですか?

例えば、季節性インフルエンザや足白癬(水虫)などが報告されています[1-4]。
「動物由来感染症」という文字だけを見ると「動物だけが感染源である」という誤解しちゃうかもしれませんね。
日本国内で報告されている人獣共通感染症

人獣共通感染症にはどんな病気があるんですか?

全世界で200種類以上のズーノーシスが報告されています。

そんなに!?
日本ではどんな病気が発生しているんですか?

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)を基準にすると、20種類くらいのズーノーシスが発生していますね。
感染症法では、約50種類のズーノーシスで届け出が必要となっています。
輸入症例も含めると、このうち21種類の人獣共通感染症の発生が報告されていますよ。
感染症 | 感染症法 |
結核 | 2類 |
細菌性赤痢 | 3類 |
腸管出血性大腸菌感染症 | 3類 |
E型肝炎 | 4類 |
Q熱 | 4類 |
エキノコックス症 | 4類 |
オウム病 | 4類 |
狂犬病 | 4類 |
サル痘 | 4類 |
重症熱性血小板減少症候群 | 4類 |
ダニ媒介脳炎 | 4類 |
日本紅斑熱 | 4類 |
日本脳炎 | 4類 |
ブルセラ症 | 4類 |
野兎病 | 4類 |
ライム病 | 4類 |
レプトスピラ症 | 4類 |
クリプトスポリジウム症 | 5類 |
播種性クリプトコッカス症 | 5類 |
破傷風 | 5類 |
新型コロナウイルス感染症 | 新型インフルエンザ等 |

全ての症例が動物由来ではないけど、けっこうあるでしょ!
獣医師の届け出が必要な人獣共通感染症
上記は、人で発生が確認された場合に医師が報告をしなければならない疾病です。

動物での発生は獣医師が報告しているんですか?

特定の人獣共通感染症については獣医師にも報告義務があります。
感染症法では、獣医師の届け出についても規定しています。
人に感染させるおそれが高いものとして12項目が政令(施行令)で定められています。
動物 | 感染症 |
サル | エボラ出血熱 |
サル | マールブルグ病 |
サル | 細菌性赤痢 |
サル | 結核 |
プレーリードッグ | ペスト |
イタチアナグマ | 重症急性呼吸器症候群(SARS) |
タヌキ | SARS |
ハクビシン | SARS |
鳥類 | ウエストナイル熱 |
鳥類 | 鳥インフルエンザ(H5N1 or H7N9) |
犬 | エキノコックス症 |
ヒトコブラクダ | 中東呼吸器症候群(MERS) |

犬が対象となる疾病があるんですね!

あまり知られていないけど、実はそうなんです!
動物のエキノコックス症
エキノコックス症は、日本では北海道だけの感染症と考えられていました。
しかし、2014年以降は愛知県でも発生が報告されています[5]。
どのようにして愛知県に持ち込まれたかは分かっていません。

なんか怖いですね…

大丈夫ですよ!
エキノコックス症は感染源や感染経路がよく分かっている病気です。
適切に予防すれば、人への感染の危険性はありませんよ!
ペットも人獣共通感染症(ズーノーシス)の感染源

ペットが感染源になることもあるんですよね?

はい!
今回はそれを伝えたかったんです!
犬・猫・齧歯類・うさぎ・鳥類・爬虫類などのペットも人獣共通感染症(ズーノーシス)の感染源になることが知られています。
以下は、ペットから人に感染する可能性がある人獣共通感染症(ズーノーシス)です。
感染症 | 感染症法 | 犬 | 猫 | 齧歯類 | ウサギ | 鳥類 | 爬虫類 |
重症熱性血小板減少症候群(SFTS) | 4類 | 〇 | 〇 | ||||
オウム病 | 4類 | 〇 | 〇 | ||||
Q熱 | 4類 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
日本紅斑熱 | 4類 | 〇 | 〇 | ||||
猫クラミジア感染症 | – | 〇 | |||||
パスツレラ症 | – | 〇 | 〇 | ||||
猫ひっかき病 | – | 〇 | |||||
カプノサイトファーガ感染症 | – | 〇 | 〇 | ||||
ブルセラ症 | 4類 | 〇 | |||||
コリネバクテリウム・ウルセランス感染症 | – | 〇 | 〇 | ||||
サルモネラ症 | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
エルシニア症 | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
カンピロバクター症 | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | |
レプトスピラ症 | 4類 | 〇 | 〇 | 〇 | |||
野兎病 | 4類 | 〇 | 〇 | ||||
クリプトコッカス症 | 一部5類 | 〇 | |||||
皮膚糸状菌症 | – | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
エンケファリトゾーン症 | – | 〇 | |||||
クリプトスポリジウム症 | 5類 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
トキソプラズマ症 | – | 〇 | |||||
エキノコックス症 | 4類 | 〇 | |||||
瓜実条虫症 | – | 〇 | 〇 | ||||
犬糸状虫症 | – | 〇 | 〇 | ||||
犬・猫回虫症 | – | 〇 | 〇 | ||||
東洋眼虫症 | – | 〇 |

法律で指定されていない疾病もたくさんあるんですね~

そうなんですよ~しかも、人獣共通感染症の病原体を保有しているペットの多くは無症状なんです!
具合が悪くならないと動物病院に連れてこない飼い主さんも多いです。
でも、動物に常在している病原体の場合、その動物は無症状の可能性があります。

「元気だから」「健康そうだから」という理由では安心できませんよ。
動物に常在する病原体がすべて人に感染するわけではありません。
でも、接触や管理の不備により感染する場合があることを知って欲しいです。
飼い主さんの義務
動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)では次のように規定しています。
動物の所有者又は占有者は、その所有し、又は占有する動物に起因する感染性の疾病について正しい知識を持ち、その予防のために必要な注意を払うように努めなければならない。
また、感染症法でも次のように規定しています。
国民は、感染症に関する正しい知識を持ち、その予防に必要な注意を払うよう努めるとともに、感染症の患者等の人権が損なわれることがないようにしなければならない。
日本では、人獣共通感染症への理解を深め、感染予防に努めることを飼い主さんに求めています。

え~そんな専門的なこと、自分で勉強できないですよ。

ですよね!
だから、獣医師を頼ってください!

人獣共通感染症のことも相談できるのですか?

もちろんです!
ただ、獣医師にも興味・関心があって、国家試験受験以降は情報収集していない場合もあります。
飼い主さんの情報源
厚生労働省は「動物由来感染症ハンドブック」を作成しています。
一般の方でも読める内容になっていますので、一度ご覧になってください。
分からないことがあれば、このページをかかりつけの獣医師さんにみせて相談してみましょう!
人獣共通感染症の予防のために飼い主ができること

いろいろな人獣共通感染症があるのは分かったんですけど、飼い主さんは予防のために何ができるんでしょうか?

それを最後にそれをまとめましょう!
これからペットを飼う人とすでにペットを飼っている人に分けて説明しますね!
これからペットを飼う人へ
これからペットを飼う予定の人は、必ず家庭環境とペットの種類を考えてください。
例えば、以下に挙げるような人が家庭にいる場合は要注意です。
- 5歳未満の子供
- 65歳以上の高齢者
- 免疫力が低下している人

上記の人は、齧歯類・鳥類・爬虫類・両生類と接することは避けましょう。

どうしてですか?

これらの動物が保有するサルモネラ菌やカンピロバクター菌などの病原体は、特に免疫力が低下した人にとって危険性が高いです。
健康な人であれば軽症ですむかもしれません。
でも、免疫系が発達していない子供や低下している高齢者では、重症化する可能性が高まります。
加えて、幼い子どもは手や物を口に入れることも多いです。
動物の糞尿や唾液で汚染された可能性の物にはアクセスできないような環境設計も必要ですね。
また、妊娠中の方がいる家庭では齧歯類や猫を飼育するのは止めましょう。
齧歯類や猫(特に野良猫)は、胎児に感染する病原体を保有している場合があります。
すでにペットを飼っている人へ

お伝えしたいことがいっぱいあるので、箇条書きでまとめますね。
- 動物、排泄物、フード、備品(ケージ・水飲み器・おもちゃ・リードなど)を扱った後は手を洗いましょう。
- お子さんがいる場合は子どもの手洗いも忘れずに。 特に、哺乳瓶などを扱う前や乳幼児を抱っこする前は必ずです。
- ペットを顔に近づけたり、ペットにキスをしたり、ペットに顔や口をなめさせたりするのは止めましょう!
- お子さんがペットと触れ合う場合は、常に子供を監督しましょう。
- ペットやその関連用品は、台所などの食べ物を準備したり、食べたりする場所には置かないようにしましょう。
- 柵など設置して、ペットが自由に行き来できない環境を作りましょう!
- ペットのトイレの管理を怠らないようにしましょう!
- 糞尿の後始末はできる限り早く実施する。
- 猫砂は少なくとも週に2回は交換してください。
- 妊娠中の女性は猫砂を掃除することは止めましょう。
- ケージや備品の洗浄は屋外で清掃しましょう。
- 難しい場合は、洗濯機のシンクや浴槽で洗浄し、終了後はすぐに消毒をしてください。
- ペットと遊ぶ時は、咬まれたり引っかかれたりしないようにしましょう。
- 食餌中のペットには近づかないようにしてください。
- お子さんが動物と遊ぶ場合は、適切な遊び方を教えましょう。
- ペットに咬まれたり引っかかれたりしたら、すぐに患部を石鹸と水で洗いましょう。
- 傷口が深い、赤い、痛い、腫れている→医療機関を受診
- 具合が悪くなっても、受診しない人がいます。
- 重症化すると大変ですから、症状がでたら必ず医療機関を受診してください!
医療機関を受診される方へ

医療機関を受診される際はペットを飼育していることを担当者にお伝えください。
よろしければ、以下のフォーマットをご利用ください。
【まとめ】ペットと人獣共通感染症(ズーノーシス)
今回は、脊椎動物と人の間で感染が成立する病気「人獣共通感染症(ズーノーシス)」についてまとめました。

犬や猫が病気の原因になるかもしれないんですね。

人獣共通感染症と聞くと「野生動物からの感染」を思い浮かべる人が多いんだけど、実はペットから感染する病気もけっこうあるんですよ。
犬・猫・齧歯類・うさぎ・鳥類・爬虫類などのペットも人獣共通感染症(ズーノーシス)の感染源になります。
病原体を保有していても無症状なことがあるので、見た目では判断できないことも多いです。

でも、過剰に恐れる必要はありません。
記事の後半で挙げたポイントを実施して、ペットとの距離を適切に保てれば問題はありません。
そして、人獣共通感染症(ズーノーシス)に関する知識を少しずつ身につけていってください。
当サイトでも人獣共通感染症に関する知識を共有していく予定です。
それが飼い主さんやその家族が健康でいることを可能にします。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

ありがとうございました。
参考文献リスト
[1] LIN, Degui, et al. Natural and experimental infection of dogs with pandemic H1N1/2009 influenza virus. Journal of General Virology, 2012, 93.1: 119-123. [PubMed]
[2] SAID, Awlad Wadair Ali, et al. A sero-survey of subtype H3 influenza A virus infection in dogs and cats in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 2011, 73.4: 541-544. [PubMed]
[3] HORIMOTO, T., et al. Serological evidence of infection of dogs with human influenza viruses in Japan. The Veterinary record, 2014, 174.4: 96. [PubMed]
[4] 横井愼一, et al. Trichophyton rubrum による犬の皮膚糸状菌症の 1 例. 獣医臨床皮膚科, 2010, 16.4: 211-215. [J-STAGE]
[5] 愛知県「犬におけるエキノコックス症の発生に伴う注意喚起について」
2025年1月16日 アッチーブ(獣医師&獣医学博士)
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