法律・省令(施行規則)で獣医師の資格が求められる職種【まとめ】~「動物のお医者さん」以外の多彩なキャリアパス~
- 資格要件が「獣医師」に限定される職種
- 資格要件に「獣医師」が対象となっている職種
- 「獣医師資格」が免許の付与要件になっている職種
こんちには!
獣医師のアッチーブです。
「獣医師」と聞くと、皆さんはどのような職業を思い浮かべますか?
多くの方が動物病院で働く「動物のお医者さん」を想像するかもしれませんね。
でも実は、それだけではありません。
獣医師は、医薬品開発・研究、大学等の教育・研究機関、食品の品質管理、動物愛護、自然環境保全など幅広い分野で活躍し、勤務先も大学や企業、政府機関など多岐にわたります。
ただ、残念ながら、この事実を知るのは大学生になってからという人が多いですね。
進路を考える時期にある中学生・高校生に、このような幅広いキャリアがあることを知ってもらいたい!
「獣医師=動物のお医者さん」だけに限定せず、多様な獣医師像について考えてもらいたい!
このような想いから、各種法令で定められた獣医師の資格が求められる職種をまとめ記事を書きました。
特に以下の方々に読んでもらえると嬉しいです。
- 獣医師に憧れる中学生&高校生とその親御さん
- 進路指導にあたる中学校&高校の教員
ぜひ、最後までお付き合いください!
この記事のゲスト:大翔さん
高校2年生。獣医師に憧れ、獣医学部(獣医学科)への進学を目指している。
獣医師の資格が求められる職種の種類
以前の記事で、「獣医師=動物のお医者さん」だけじゃないことは分かったけど、具体的な職業の紹介はなかったですね。
ごめんなさい。情報整理が追いつかなくて…
私もやっと整理できたので、今回は「獣医師資格が必要な職種」をまとめていきますね。
お願いします!
まず、法令で獣医師の資格が求められる職種の種類を説明しますね。
法律や省令(施行規則)で獣医師の資格が必要な職種は、3段階に分類されます。
- 就業要件が「獣医師」に限定される職種
- 就業要件に「獣医師」が対象となっている職種
- 免許の付与要件に「獣医師資格」がある職種
各種求人で「獣医師」を募集する場合は、このどれかに該当していますよ。
また、働く場所・機関は、国 or 地方自治体と民間事業所に分かれますね。
それでは一つずつ整理していきましょう!
「獣医師」限定の職種
就業要件が「獣医師」に限定される職種で、所属が国 or 地方自治体となるものは次の通りです。
- 家畜防疫官
- 家畜防疫員
- 家畜保健衛生所の所長&獣医師職員
- 狂犬病予防員
- 食鳥検査員
- 動物愛護管理担当職員
- と畜検査員
また、所属が民間事業所となるものは次の通りです。
- 飼育動物診療施設(動物病院)の「管理者」
- 飼育動物の診療獣医師
- 市場で取引される家畜を検査する獣医師
「獣医師」に限定される職種って、こんなにたくさんあるんですね!できれば、仕事内容も説明して欲しいです。
分かりました。簡単ですが、職務内容をまとめていきますね。
国 or 地方自治体で「獣医師」限定の職種
職種名 | 所属 | 関連法令 | 仕事内容 |
家畜防疫官* | 農林水産省 | 家畜伝染病予防法 | 空港や港の動物検疫所で海外から輸入される動物や畜産物の検査、海外に輸出する動物や畜産物も輸出先の受入条件を確認しながら検査 |
家畜防疫員* | 都道府県 | 家畜伝染病予防法 | 畜産農家を巡回して家畜の検査・家畜伝染病の予防の業務、農家に対する技術指導・衛生指導、家畜伝染病が発生時は、その拡大を防ぐための処置 |
家畜保健衛生所の職員 | 都道府県 | 家畜保健衛生所法 | 所長業務、家畜の伝染病の検査、畜産現場での採材や伝染病の対策、飼養衛生管理や生産性向上の指導 |
狂犬病予防員 | 都道府県 | 狂犬病予防法 | 飼い犬の登録と狂犬病予防注射についての普及啓発、狂犬病予防注射、狂犬病が発生した場合のまん延防止、適正な管理がされていない犬の捕獲・健康管理・飼い主への返還・新たな飼い主への譲渡 |
食鳥検査員 | 都道府県 | 食鳥検査法 | 食鳥処理場で、鶏・あひる・七面鳥の検査(病気や異常の有無を1羽ごとに調べて、食肉として良いかどうかを判断) |
動物愛護管理担当職員* | 都道府県 | 動物愛護管理法 | 犬・猫の引取り&譲渡などに関する業務、動物の適正管理に関する広報や啓発活動、動物取扱業の登録、動物取扱業への立入検査、特定動物の飼養許可に係る業務 |
と畜検査員 | 都道府県 | と畜場法 | 食肉衛生検査所で、牛・馬・豚・羊・山羊の検査(病気や異常の有無を1頭ごとに調べて、食肉として良いかどうかを判断) |
* 原則「獣医師」に限定されるが、必要があれば「獣医師」以外でも就くことが可能
民間事業所で「獣医師」限定の職種
職種名 | 所属 | 関連法令 | 仕事内容 |
動物病院の「管理者」 | 飼育動物診療施設 | 獣医療法 | 飼育動物診療施設の構造や設備の管理、医薬品などの物品の管理など |
飼育動物の診療獣医師 | 飼育動物診療施設 | 獣医師法、薬剤師法、家畜改良増殖法 | 飼育動物の診療、処方箋の交付・調剤、家畜人工授精に関する業務など |
家畜市場の検査獣医師 | 家畜市場 | 家畜取引法 | 家畜市場で取引される家畜の疾病羅患の有無などを検査 |
「獣医師」が対象となっている職種
次は、就業要件で「獣医師」が対象となっている職種ですね!
法律等で指定るする者の中に「獣医師」が含まれるパターンです。
所属が国 or 地方自治体となるものは次の通りです。
- 保健所の職員
- 食品衛生監視員
- 薬事監視員
- 独立行政法人 家畜改良センターの検査職員
また、所属が民間事業所となるものは次の通りです。
- 医薬品製造管理者
- 家畜人工授精所の管理者獣医師
- 飼料製造管理者
- 食品衛生管理者
- 食鳥処理衛生管理者
- 補助犬訓練事業者が行う補助犬訓練に参加する獣医師
- 補助犬認定を実施する指定法人の審査委員会に参加する獣医師
こちらも仕事内容の説明をお願いします。
もちろんです!
国 or 地方自治体で「獣医師」が対象となる職種
職種名 | 所属 | 関連法令 | 仕事内容 |
食品衛生監視員 | ・厚生労働省 ・都道府県 ・保健所を設置する市 | ・地域保健法施行令 ・食品衛生法 | 飲食店など食品関連営業施設の立入検査・監視 ・指導、食中毒などの調査、営業施設からサンプリングした食品などの検査など |
薬事監視員 | ・農林水産省 ・厚生労働省 ・都道府県 ・保健所を設置する市 | ・地域保健法施行令 ・薬機法施行令 | 医薬品製造 ・販売業者などへの立入検査、未承認・未許可・不良医薬品・不正表示品の監視、虚偽、誇大広告・無許可販売の取り締まり、製造所・販売所から収去した医薬品の品質検査 |
家畜改良センターの検査職員 | 独立行政法人 家畜改良センター | 家畜改良増殖法 | 家畜の診療、衛生検査、消毒等の防疫業務、繁殖業務、肥育牛の枝肉調査、農水大臣の命令で実施する家畜人工授精所等への立入検査など |
環境衛生監視員は法令では定められていない
環境衛生監視員って仕事もあるって聞いたことあるけど、ここにはないですね。どうして?
よくご存知ですね!環境衛生監視員として働く獣医師もいます。でも、法令では定められていないので除外しました。
へぇ~。ってことは誰でもなれるのかな?
そうでもありません。法的拘束力はありませんが、旧厚生省の局長通知*で「医師、歯科医師、薬剤師又は獣医師」などが記載されていますよ。
そうなんですね!どんな仕事なのか気になるので教えてください。
わかりました!
職種名 | 所属 | 仕事内容 |
環境衛生監視員 | ・都道府県 ・保健所を設置する市 | 立入検査(理・美容所、クリーニング所、火葬場)、旅館施設&公衆浴場の構造設備の検査や衛生管理状況の監視・指導、特定建築物(興行場、百貨店、集会場、図書館など)の維持管理状況の確認、浄水場や取水施設などを立入検査や維持管理記録・水質検査結果の確認 |
*昭和42年1月11日環衛第7003号厚生省環境衛生局長通知
民間事業所で「獣医師」が対象となる職種
職種名 | 所属 | 関連法令 | 仕事内容 |
医薬品製造管理者 | 動物用医薬品を製造する企業 | 動物用医薬品等取締規則 | 動物用医薬品の製造管理・品質管理の統括 |
家畜人工授精所の管理者獣医師 | 家畜人工授精所 | 家畜改良増殖法 | 管理者として家畜人工授精所を管理 |
飼料製造管理者 | 飼料などを製造・販売する企業 | 飼料安全法 | 飼料&飼料添加物の製造現場の管理・統括 |
食品衛生管理者 | 食品や添加物を製造・加工する企業 | 食品衛生法 | 食品製造・加工施設の衛生管理 |
食鳥処理衛生管理者 | 食鳥処理場 | 食鳥検査法 | 食鳥検査員の監督のもと、疾病や異常の有無を確認・検査の補助・協力 |
補助犬の訓練に関わる獣医師 | 補助犬の育成・訓練に関わる福祉団体やボランティア団体など | 身体障害者補助犬法施行規則 | 訓練事業者が行う補助犬訓練に参加、指定法人が実施する補助犬認定の審査委員会に参加 |
盲導犬訓練施設には獣医師を置くべき
補助犬の訓練に関わる獣医師だけ、職種というよりは役割みたいな感じですね。
法令は「連携を確保する」って書き方で、具体的な職名を定めてないからだと思います。
補助犬の訓練施設には獣医師は常駐した方がいいと思うんですけど、法令ではそう定めてないのですか?
平成15年に厚生労働省が出した省令(身体障害者社会参加支援施設の設備及び運営に関する基準)は、盲導犬訓練施設に獣医師を置くように定めてますね。
でも、盲導犬以外の補助犬(聴導犬&介助犬)については、特に定めてないですね。
免許の付与要件に「獣医師資格」がある職種
特定の免許が必要な職種で、その免許の付与要件に「獣医師資格」がある職種が存在します。
ん?免許と資格って違うんですか?
そうなんです!違うんですよ~
どう違うんですか?
免許は法令で禁止されている行為を行うためのものですね。一方、資格は一定以上の知識・技術を有していることの証明ですね。
なるほど~獣医師資格があっても免許を持っていないと出来ない仕事があるんですね!
その通り!それでは一覧表でまとめますね!
免許の名称 | 所属 | 関連法令 | 仕事内容 |
衛生検査技師 | 医療機関や検査機関など | 臨床検査技師等に関する法律 | 医師の指導・監督のもとで、微生物学的検査、血清・血液学的検査、病理学的検査、寄生虫学的検査、生化学的検査などを実施 |
麻薬管理者 | 動物病院など | 麻薬及び向精神薬取締法 | 診療施設での麻薬の入庫・使用量・廃棄などを管理&記録 |
麻薬施用者 | 動物病院など | 麻薬及び向精神薬取締法 | 治療の目的で麻薬を使用&処方 |
免許を持たない獣医師に麻薬を管理・使用させる動物病院
免許が付与されて初めて、麻薬を取り扱う業務ができるようになります。
ただ、このルールを守っていない動物病院もあるので気をつけてください。
私が勤めていた病院では、麻薬管理者・麻薬施用者ではない獣医師に麻薬の管理や使用をさせている所もありました。
どうして、そういうことが起きるんですか?
分かりません。当時、「なぜ?」と聞いても教えてくれなかったので。人手不足なのか?経験を積ませたいのか…
経験を積めるのはいい気がしますけど…
法令違反で自分が処罰される可能性も許容できるならOKだと思いますよ。
私は嫌だったので拒否したら、院長の機嫌がめちゃくちゃ悪くなり、スタッフから説教されました。
麻薬研究者は?
研究者も麻薬を使う場合もあるって聞いたんですけど、ココには入ってないですね。
よく知ってるね!
確かに、「麻薬研究者」という免許があります。学術研究で、麻薬の原料となる植物を栽培したり、麻薬を製造・使用したりする人たちのことですね!
麻薬研究者は「獣医師資格」などの特別な資格はいらないの?
はい、要りません。ただ、獣医師等の資格がある場合は、その免許証番号&登録年月日を記載するように指示はでていますよ。
そうなんですね。よくよく考えたら、「研究のため」ですもんね。資格を持っていないから研究できないだと大変ですよね。
【まとめ】法令で獣医師資格が求められる職種
獣医師のキャリアは、動物病院だけにとどまりません。
医薬品や飼料開発、食品管理、動物愛護など、多岐にわたる分野でその専門性が活かされています。
将来、獣医師を目指す人には、こうした選択肢を知って欲しい!
「獣医師=動物のお医者さん」というイメージを超え、自分がどんな分野で活躍したいのかをぜひ考えてみてください。
未来の選択肢が広がることで、獣医師という夢がさらに現実味を帯びるでしょう!
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
2024年11月16日 アッチーブ(獣医師&獣医学博士)
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