- 求めている情報を素早く探すには文献検索データベースで探すのがオススメ
- 最初は日本語の雑誌や総説で知識を増やそう
- 論文は最初から最後まで読む必要はなく、項目によって読み方を変えることが大切
- 検査法や診断法に関する論文は演繹法の論文を探す
- 国立国会図書館の利用のススメ
こんちには!
獣医師のアッチーブです。
今回は論文の探し方や読み方がわからないと悩んでいる獣医師に向けて私のやり方を共有していきます。
私が臨床獣医師だった頃に感じたのは感覚と経験の獣医療が多いということ。
手技や理屈を教える獣医師は少ないけど、論文の探し方・読み方、問いに対する仮説の立て方などを指導できる獣医師はもっと少ない。
獣医学という科学を学んだはずなのに、それを基に体系立てて説明できる人が少ないのは残念だと感じました。
幸い、私は学生時代にそれを身に着けたので、それを実践していました。
まぁ、それを受け入れたくないという年配層からは嫌われていたんですけどねw
もう臨床家ではないので、どうでもいいっちゃどうでもいいことなのですが、感覚や経験を言語化することが大切と主張している私が、それを放棄する矛盾を感じたので執筆します。
若手の臨床家やこれから臨床獣医師を目指す人には、獣医学を基にした獣医療を提供できる人になって欲しい!
そんな想いを込めてまとめました!
論文の探し方
論文やガイドラインの探し方は3つあります。
- 学術雑誌から探す
- 各文献の引用リストから探す
- 文献検索データベースから探す
どの探し方も一長一短があり、どれが一番良いということはありません。
ただ、求めている情報を手っ取り早く探すことができるという点では、「文献検索データベースから探す」がオススメです。
論文検索データベース
ココでは私がよく使う論文検索データベースを紹介します。
- CiNii
- J-STAGE
- PubMed
- Google scholar
CiNii(サイニィ)
論文、図書・雑誌や博士論文などの学術情報で検索できるデータベースです。
誰でも無料で利用でき、文献以外にも、研究プロジェクト情報や全国の大学図書館が所蔵する図書・雑誌が検索できちゃう!
読みたい文献がオープンアクセスであれば、リンク先からワンクリック(ワンタップ)で閲覧可能なので、使い勝手も良いですよ~
日本で授与された博士論文の検索もできるので、日本の学術情報を探すならココを一択ですかね。
J-STAGE(ジェイ・ステージ)
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が運営する電子ジャーナルのプラットフォームです。
25の専門分野(獣医学も含む)の約4,000の学術雑誌・刊行物などが公開されており、分野ごとの検索もできます。
オープンアクセス化が進んでおり、9割以上の文献が無料で閲覧可能なんですよ!
アカウントサービス(無料)に登録すると、検索条件の保存&指定した資料の最新号通知機能も利用できるのでオススメです。
PubMed(パブメド)
National Center for Biotechnology Information(NCBI)が作成している生命科学・生物医学系ジャーナル中心のデータベースです。
その中のMEDLINE(メドライン)は、生物医学や健康(医学・看護学・歯学・獣医学・薬学・健康科学・介護など)を対象とした医学文献のデータベースです。
MEDLINEの文献は、NCBIの専門スタッフが論文情報にキーワード(医学主題見出し用語:MeSH)を付与しているので、 “MeSH Database” からの検索もできますよ!
デメリットは、英語で検索するデータベースなので、慣れないと時間がかかってしまうことですかね。
Google scholar(グーグルスカラー)
Googleが運営する論文検索サービスです。
分野に関係なく世界中の文献を検索できるし、無料公開されている文献はPDFの閲覧も可能なんですよ!
Google scalarでは、文献の引用回数と引用元が表示されるので、業界や分野で注目されている文献を探しやすいという特徴があります。
私の論文の読み方【最初は日本語の文献】
論文を読書のようにスラスラっと読むためには知識と語彙力が重要になります。
対象の論文が英語であれば、そこに英語力も必要となるでしょう。
最近はDeepLがありますので、英語へのハードルはかなり低くなりました。
それでも、初めから英語論文を読むことはオススメしません。
最初は知らない英単語だらけでしょうし、DeepLも変な翻訳をする時があるので、その場合は自身の語彙力で補う必要があるからです。
そもそも、読むたびに未知の単語が出てきたら、それが苦痛で止めますよねw
だから、最初は日本語の雑誌や総説で知識を増やしましょう!
私はGoogleで「キーボード1(スペース)キーボード2(スペース)PDF」と検索していました。
これでキーワードに関するPDFが検索上位に表示されるので、概要把握がしやすいですよ!
例えば、「抗がん剤 犬リンパ腫 PDF」の検索結果は以下の通り。
こんな感じで日本語の知識や語彙量を増やしたら、日本語検索に対応しているCiNiiやJ-STAGEで文献検索をしてみましょう。
私の論文の探し方・読み方【英語の文献】
日本語の論文を読むことに慣れてきたら、次はいよいよ英語の文献ですね!
英語論文の探し方・読み方も色々なやり方がありますが、私は3通りのやり方を実践していました。
- 引用リストから原典へアクセス
- 明確な目的のためにデータベースで検索
- 専門分野の知識を深めるためにデータベースで検索
引用リストから原典へアクセス
日本語でも英語でも、学術的な文献には引用文献リストがついています。
先に書いた日本語文献を読む過程で「へぇ~そういう考えもあるんだ!」とか「そんなデータも報告されているのか!」と思ったら、引用リストから原典にアクセスしてみましょう。
なぜなら、引用は当該文献の著者の解釈に基づく行為なので、引用先の原典の主張と一致しているかどうかは読者が判断しなければなりません。
日本は基礎研究や臨床研究の数が少ないので、引用文献の多くは英語の文献が多いという印象です。
引用先が英語だと知って原典漁りを止めるのではなく、それを英語の文献に触れる機会に変えていきましょう!
明確な目的のためにデータベースで検索
臨床で経験した事象を説明する理由を考えるときはこの方法ですね。
慣れないと、ちょっと難しいかもしれません。
仕事や日常で得た体験から何が言えるか?
いくつか仮説を立て、その仮説を支持する論文や反する論文を探していきます。
立てた仮説に基づいて網羅的に読んでいくので、これを文献スクリーニングと言います。
この方法のポイントはじっくり読まないこと!
その仮説に関する情報を探し出すために効率よく読んでいきましょう!
具体的には、検索(Control + F)機能で目的のキーワードを探索し、その箇所の前後を読みます。
キーワード検索では発見できない場合は、アブストラクト・結果・考察の部分にその論文の重要な情報が書かれることが多いので、その辺りを重点的に探すとよいでしょう。
専門分野の知識を深めるためにデータベースで検索
自身の専門分野の動向や知識を深めるために論文を読むときはこの方法ですね!
動物病院によっては文献紹介(ジャーナルクラブ)を定期的に開催する所もあるようですが、その準備で論文を読む場合もこの方法です!
先ほどの文献スクリーニングとは異なり、目的が知識を増やすことなのでじっくりと読んでいきましょう。
でも、最初から最後まで読む必要はなく、項目によって読み方を変えることが大切です!
タイトル(Title)
ココにその論文で一番伝えたいことが来ますので、タイトルからその論文の内容を推測することが出来ます。
文献検索の段階で特に意識しましょう!
アブストラクト(Abstract )
論文を短く要約したもので、短時間で概要を掴むときにオススメです。
でも、重要な条件(投与回数・投与経路・用量など)の情報は載らないことが多いですので、これで論文を理解したつもりになってはいけません。
また、この論文が論理を積み重ねて結論を出す演繹法スタイルなのか、それとも観察された事実やデータから法則を導き出す帰納法スタイルなのかを判断すこともできます。
前者は「仮説が正しければこうなるはず」という「予測」を検討するものなので “We hypothesized that” で始まる文章を含んでいることが多いです。
後者は経験や先行研究をもとに仮説(未知の原理・原則)を導くものなので “We proposed that” とか “We examined that” で始まる文章が書かれていることが多いです。
どちらも重要な論文ですが、検査法や診断法に関する論文の場合は、演繹法の論文を探すようにしましょう。
実験・解析で使用している検査試薬が本当に応用できるのかを検証せずに、とりあえず実験回数だけを重ねた帰納法の論文はたくさんあるので、注意が必要です。
イントロダクション(Introduction)
その論文を理解する上で重要な背景が書かれている部分です。
- なぜ、その研究が重要なのか?
- 明らかになっていることは何か?
- 分からないことや課題は何か?
こういった情報はココに集約されます。
研究・観察・解析する動機が詰まっていますので、初めて読む分野の場合はじっくり読みましょう!
イントロダクションの書き方は定型パターンなので、その分野に慣れてくると飽きるかもしれません。
そうだと気付いたら、自分が知識を身に着けた証ですので読み流しても良いでしょう。
材料と方法(Materials and Methods)
研究(実験)のやり方についた書かれている箇所です。
臨床研究では、ココに処置の詳細(投与回数・投与経路・用量など)が書かれていますので、自身の職場で採用する場合はじっくり読んでください。
科学の世界では再現性がとても大切です。
ココに書かれている通りに実践して、同じ結果が再現できるのか検証しましょう!
また、ジャーナルクラブのためであり、実際に採用するかどうか分からない場合もじっくり読んでください。
その理由は質問に備えるため。
その結果がどういう条件で出てきたのかを気にする人は必ずいます。
逆に自身の知識のアップデートが目的の場合は、最初から最後まで読む必要はないでしょう。
結果や考察の部分を読みながら、気になったところだけ見返すだけで十分だと考えます。
結果(Results)
文章と図で得られたデータを読み取る箇所です。
先ずは図とその説明(Figure legend)を見てデータを視覚的に理解してから、文章でデータの詳細を把握していきましょう。
図を説明する該当の文章は “(ex: Fig. 2-1)” のように括弧で強調されていますので、その前後を読んでいくと理解しやすいでしょう。
考察(Discussion)
ココは結果の「解釈」が書かれる所です。
ココまで読んだあなたは、データの意味やこの論文の意義を自分なりに考えているかもしれません。
あなたのその解釈が著者たちと同じかどうかを確認できる場所が考察です。
元研究者の私は、ココが一番ワクワクするのですが、皆さんはいかがでしょうか?
引用文献(References)
この論文で引用された文献がリストになって載っています。
文中で言及されている内容で「そういう考えもあるのか!」とか「興味深いデータも報告されているのね。」と思ったら、チェックして次に読む論文リストに加えておきましょう!
文献検索でよくある偶然の発見
論文をじっくり読んでいると「偶然の発見」によく遭遇します。
多かれ少なかれ、皆さんも「ふとした拍子に探していた物が見つかった」経験はあると思いますが、それは文献検索でも起きるんです!
ココでいう「偶然の発見」とは、文献スクリーニングで見つけることができなかった情報を、それとは別の機会に見つけることです。
論文をじっくり読むと、この「潜在的な」知りたい情報を見つけることもできますよ。
見つけたときのスッキリ感は、それを経験した人だけの特権ですね!
私の論文の読み方【テクニック編】
私は文献スクリーニングはパソコンで読みますが、じっくり読むときは今でも紙媒体で読みます。
理由は2つ!
- 書き込みができる
- アナログ世代なので紙の方が疲れない
ただ、最近はタブレットと電子ペンのセットも多数ありますので、デジタルネイティブな方はそっちが良いでしょう!
書き込みは、色ペンやポストイットを使って整理することをオススメします。
特に、調べたこと・調べたけど分からなかったことは忘れずにメモしておきましょう!
人間は忘れる生き物ですので、復習が必須です。
見返すときに、色ペンやポストイットで整理されていると、視覚的な判断が可能となります。
論文を読むときの注意点
ココでは論文を読むときの注意点を4つお伝えします。
- 論文は信頼できる人にもらう
- 論文の内容を鵜呑みにしない
- 似た内容の論文も読んで比較する
- 読みっぱなしはダメ
論文は信頼できる人にもらう
この世に出ている論文の数は膨大です。
その中から自分が必要としている論文を見つける必要があります。
文献検索の経験が浅い人は、どの論文が適したものか分からないと思います。
だから、可能ならば最初は院長や先輩獣医師から論文をもらいましょう!
「可能ならば」と書いた理由は…分かりますねw
指導医が感覚と経験重視の職人さんだと、これは実現しません。
その場合は、VETS TECHやVetpeerなどで開催されるオンライン講座の資料から論文を探すのが良いでしょう!
配布資料にも引用文献や参照文献の情報が書かれていることがあります!
論文の内容を鵜呑みにするのはダメ
「科学の世界では再現性がとても大切です。」と書きました。
しかし、現実は再現性が確認できていない研究も多数存在します。
色々な理由がありますが、「材料と方法」には載ってこない隠された条件がある可能性が指摘されています。
臨床試験であれば対象動物の由来や飼育環境の違い・N数・健康状態などで結果は変わるし、疫学研究であれば観察集団が異なれば正反対の結論がでることもあります。
だから、再現性が確認できない可能性を常に持って、論文を「疑う」姿勢を持ち続けることが必要です。
なお、科学の世界のエビデンス(根拠)にはグレードがあります。
以下の記事で詳しくまとまっていましたので、興味がある方はそちらをご覧ください。
似た内容の論文も読んで比較
1つの論文を読み終えたら、その近日中に似た内容の論文を読んで比較しましょう。
同じテーマの論文を読めば理解が深まりますし、似た内容なのでイントロダクションなどは流し読みできて効率よく読むことができます。
読みっぱなしもダメ
読んだ文献は読みっぱなしにせずに記録しましょう。
私はエクセルを使って読んだ文献リストやこれから読む文献リストを作成しています。
管理するポイントは2つ!
- 検索機能ですぐに引っ張ってこれること
- その文献の概要を確認できる文献メモを残すこと
文献ソフトを使える人は、それを活用すると良いでしょう!
以前、読んだ気がするけど…どの文献だったかな…
こういう状況にならない程度に整理することが大切だと思います。
国立国会図書館の活用
臨床獣医師向けの専門雑誌は電子化があまり進んでいませんし高価なものが多いですよね。
CiNiiで文献検索まではできるけど、冊子媒体だったから読めないって場合も多々あります。
その場合は、国立国会図書館のサービスを利用しましょう!
資料の複写申込みや所蔵資料の図書館間貸出しサービスを利用すれば、購入するよりも安価に専門資料に触れることができますよ!
特に、資料の複写はインターネット経由で申込みができるので超便利!
使えるサービスはとことん使って、獣医学を基にした獣医療を提供できる人になってなってください!
最後に、「教科書や論文ばかり読んでないで動物を診ろよ」みたいなことを言う院長や年配獣医師もいるとは思いますが、その場合はバランス良くやってくださいね。
私はそのバランス取りが超下手くそだったので、偉そうに言える資格はありませんがw
2024年2月5日 アッチーブ(獣医師&獣医学博士)
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