スコティッシュ・フォールドの秘密!飼う前に知るべき重要な事実
この記事を執筆した当時の私
獣医師/Ph.D.(獣医学博士)/大学や製薬会社で基礎研究に従事していた元研究者/ちょっと前まで犬・猫を診る臨床に従事していたが、現在はズーノーシスの予防と啓発ができる動物病院を探す求職者
- スコティッシュ・フォールドは、おだやかで大人しい猫
- スコティッシュフォールドは疾患の遺伝性因子を保有
- 猫の飼育費用は年間20万円弱
こんちには!
獣医師の修です。
今回は、スコティッシュ・フォールドついて解説していきます。
スコティッシュ・フォールドは、スコットランドで発見された耳が折りたたまれた猫です。
イギリスやアメリカで交配・研究され、現在は長毛系統と短毛系統がいます。
見た目は可愛いですが、折りたたまれた耳は突然変異した遺伝子による影響です。
全身の軟骨に異常を引き起こす個体もいるので、病気にかかりやすい品種といえるでしょう。
私自身は見たことはありませんが、環境変化や妊娠などのストレスがきっかけで耳が立ってしまうこともあるようです。
この記事では、スコティッシュ・フォールドの歴史・性格・かかりやすい病気など、飼育し始める前に知っておいて欲しい情報を幅広く紹介していきます。
この記事のゲスト:美咲さん
1児の母で今年32歳。犬好きで自宅では犬を飼育中だが、最近は猫にも興味がでてきた。
スコティッシュ・フォールドの背景
スコティッシュ・フォールドって可愛いですね!
どんな猫ちゃんなんですか?
美咲さん、猫にも興味が湧いてきたんですね~
それではスコティッシュ・フォールドの背景から説明します!
1960年代にスコットランドで発見された猫の耳が折れていました。
前方に折れ曲がった状態(垂れ耳)が珍しかったため、イギリス・アメリカで品種改良が進められました。
この垂れ耳に関わる遺伝子は顕性遺伝なのですが、垂れ耳は必ず発現するわけではありません。
繁殖猫の組み合わせにもよりますが、生まれた猫が垂れ耳になる確率は30%程度といわれていますよ。
この垂れ耳が特徴のスコティッシュ・フォールドですが、垂れ耳に関わる遺伝子は全身の軟骨に影響をおよぼし、骨格異常や聴覚異常(骨軟骨異形成症)の原因だと分かっています。
そうなんですね…
イギリスで猫の血統管理を行うGCCFは、上記の理由からスコティッシュ・フォールドの血統登録と繁殖を実施していません。
一方、アメリカの猫の血統管理を行うCFAは、他品種の猫と異系交配することで遺伝性疾患の発症をできる限り抑えるように改良していきました。
その結果、CFAではスコティッシュ・フォールドが血統登録されています。
日本での対応はどうなってるんですか?
日本の国会でも環境省が定める「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準」を満たしていない可能性を指摘されてますね!
2022年05月11日に開かれた参議院の消費者問題に関する特別委員会で5分ほど議論されています。
- スコティッシュ・フォールドの骨軟骨異形成症が遺伝性疾患であること
- スコティッシュ・フォールドを繁殖させることに疑問を呈する声があること
これらを承知しているが、繁殖を規制することに伴う社会的な規制が大きいと予想されるので、関係団体の知見と意見をよく聞きながら検討するそうです。
これからスコティッシュ・フォールドの飼い主になることを考えている人は、こういった背景を知っていることが重要ですね!
名前の由来
「スコットランド*で生まれた耳が折りたたまれた猫」という意味でスコティッシュ・フォールドとなりました。
*1880年代に中国でも同様の個体がいたという話もあるようですが、品種改良に関わったのはスコットランドの個体です。
耳が折りたたまれていない猫
耳が折りたたまれていない猫はスコティッシュ・ストレートと呼ばれます。
「スコティッシュ・フォールドの耳が垂れない表現型」とする団体が多いですが、TICAでは品種として登録されています。
へぇ~
スコティッシュ・フォールドの特徴と性格
大きさとか性格も知りたいな~
スコティッシュ・フォールドの体格・体重・性格をまとめますね。
大きさ
体長は約60 cm 前後です。
♀よりも♂の方が若干大きいですね。
約1年で成猫になり、平均体重は♀であれば3~5 kg、♂であれば3~6 kgくらいでしょうか。
全体的に身体は丸みを帯びていて尾が短いので、丸まっているように見えます。
その丸みが「可愛い」ですよね!
習性と性格
性格はおだやかで、おとなしい猫とされています[1]。
また、一般的な猫のイメージと異なり、スコティッシュ・フォールドは人懐っこくて甘えん坊です。
へぇ~甘えん坊なんですね。
スコティッシュ・フォールドの飼育方法
飼育方法で気を付けること何ですか?
それが大事ですね!
日常のケアや飼育環境についてまとめます。
日常のケア
スコティッシュ・フォールドは、耳が折れ曲がっているため、耳の汚れが蓄積しやすいです。
定期的な耳掃除など耳の健康管理が重要となります。
また、おだやかな性格のせいか、運動量は多くはありません。
フード量の管理が雑になると肥満の原因になるので注意してください。
加えて、長毛系統の場合はこまめなブラッシングが必要です。
被毛ケアを怠ると毛玉の原因になります。
飼育に適した環境
おとなしい性格で、運動量も多くないので、特別な環境は必要ありません**。
鳴き声も少ないのでアパートやマンションでも飼育は可能でしょう。
人懐っこいので子供がいても大丈夫です。
逆に言えば、人懐っこく甘えん坊で人への依存度が高いので、留守になる時間が長い環境での飼育は不適説と言えるでしょう。
暑さや寒さに弱いということはありませんが、夏季はエアコンによる温度が管理が必要です。
**関節炎で痛みや跛行がでてしまったら、足への負担を減らす環境(室内の段差を少なくするなど)が必要です。
スコティッシュ・フォールドの平均寿命
平均寿命は13~14歳とされています[2]。
遺伝的性疾患も抱えているので、適切に飼育していても加齢とは関係なく具合が悪くなる可能性があります。
スコティッシュ・フォールドがかかりやすい病気
スコティッシュ・フォールドで注意したい病気や症状は以下の通りです[2]。
- 関節炎
- 弁膜症
- 心筋症
- 歩行異常/跛行/四肢の痛み
- 眼瞼炎
- 爪の外傷
- 眼脂(目ヤニ)
- 細菌性外耳炎
- 流涙症
- 疥癬
- 膀胱結石
- 耳疥癬
- 結膜炎
遺伝子による軟骨への影響が避けられない品種なので、関節炎や歩行異常が多いですね。
また、眼脂(目ヤニ)や流涙症は病気ではありませんが、眼の疾患が別にあって症状が出ている場合もあります。
遺伝性疾患
スコティッシュ・フォールドでは以下の遺伝性疾患の報告があります。
- 多発性嚢胞腎[3]
- 遺伝性骨軟骨異形成症[4]
- ピルビン酸キナーゼ欠損症[5]
多発性嚢胞腎(PKD)
腎臓に袋状の構造物(嚢胞)がたくさんできる病気です。
初期は無症状ですが、進行すると嚢胞の数が増加するので腎臓を圧迫します。
そして、最終的には腎不全となっちゃいます。
根治的な治療法はありません。
そんな…
日本でも原因遺伝子を保有している個体がいることが報告されています[6]。
ペットショップやブリーダー等で購入するときは、PKDについて血統的に問題がないか確認しましょう!
遺伝性骨軟骨異形成症
手足・しっぽ・脊椎の骨がこぶ状に増殖し、骨の変形を起こす病気です。
骨の変形が重度になると関節炎を起こし、痛みや跛行の原因となります。
スコティッシュ・フォールドの垂れ耳との関連が指摘されている遺伝性疾患です。
こちらも根本的な治療法はありません。
…
ピルビン酸キナーゼ欠損症
赤血球で酵素(ピルビン酸キナーゼ)が産生できないため、赤血球の寿命が短くなり貧血を起こします。
2〜3ヶ月齢ごろから運動不耐性や口腔粘膜の蒼白化などの症状がでてきます。
やはり、有効な治療法はありません。
やっぱり…購入する前に、遺伝性疾患について血統的に問題がないかを確認しないとダメですね。
肥大型心筋症(HCM)
HCMは猫で最も発生頻度の高い心臓病で、心臟の壁が肥厚して心機能が徐々に低下する病気です。
メイン・クーン、ラグドール、アメリカン・ショートヘアでは家族性の遺伝性疾患として有名です。
スコティッシュ・フォールドは関係ないですよね?
そうでもないんですよ!
スコティッシュ・フォールドがアメリカで品種改良された時、アメリカン・ショートヘアとの異系交配が行われました。
その影響かは分かりませんが、スコティッシュ・フォールドのHCMも遺伝性の素因が関連していると考えられています。
遺伝子検査
最近は、一般の家庭向けの遺伝子検査サービスが登場しています。
また、繁殖希望でない方も、将来発症するかもしれない疾患を知ることで心理的・経済的な準備が可能となります。
ぜひ、遺伝子検査の利用をご検討ください。
スコティッシュ・フォールドの飼育費用
飼育費用はどのくらいですか?
猫の平均的な飼育費用は、1カ月あたり15,000円くらいになります。
食費
フードやおやつといった食費の価格はピンキリですが、平均すると1カ月で4,500~5,000円ほどかかります。
日用品代
トイレシーツなどの日用品が1カ月で2,000円前後ですね。
シャンプー・トリミング代
長毛系統の場合は、シャンプーなどのお手入れをトリミングサロンにお願いする場合もあるでしょう。
1回で5,000~10,000円はかかります。
光熱費
飼育に伴って追加で発生する光熱費は、年間で13,000円くらいでしょうか。
電気代やガス代が高騰しているので、もう少し増えるかもしれません。
医療費
ノミ・ダニやフィラリア***の予防薬なども含め、健康であっても医療費として年間で1.5万円ほど必要でしょう。
1カ月にすると1,200円程度です。
疾患を発症すると、さらに医療費がかかります。
例えば、関節炎の治療では年間1万円以上、心臓の治療では年間2~5万円ほどかかります。
***犬だけでなく猫もフィラリアに感染します。田んぼ・池・お墓などが自宅周辺にある場合は検討しましょう。
ペット保険
ペットの年齢によって保険料は変わりますが、猫の1ヶ月の保険料は2,300~3,500円くらいです。
スコティッシュ・フォールドのまとめ
スコティッシュ・フォールドの歴史・性格・寿命・注意すべき病気・飼育費用についてまとめました。
初心者にオススメの猫種ですが、人への依存度が高い猫なので仕事などで留守にする時間がながい方にはオススメしません。
また、各種疾患を発症しやすい猫でもありますので、それなりの医療費がにかかることを覚悟しておきましょう。
長毛系統の場合はトリミングのための費用も確保が必要です。
ペットを飼うと環境や家計が激変します。
スコティッシュ・フォールドを購入する予定の方は、本記事で書いたことを想像してください。
そして、最後まで責任をもって面倒をみることができるかを検討してみましょう。
責任ある飼い主さんと出会えたスコティッシュ・フォールドは、周囲からも愛される猫へと育ってくれるでしょう。
参考文献リスト
[1]TAKEUCHI, Yukari; MORI, Yuji. Behavioral profiles of feline breeds in Japan. Journal of Veterinary Medical Science, 2009, 71.8: 1053-1057.
[2]アニコムの家庭どうぶつ白書
[3]LYONS, Leslie A., et al. Feline polycystic kidney disease mutation identified in PKD1. Journal of the American Society of Nephrology, 2004, 15.10: 2548-2555.
[4]GANDOLFI, Barbara, et al. A dominant TRPV4 variant underlies osteochondrodysplasia in Scottish fold cats. Osteoarthritis and cartilage, 2016, 24.8: 1441-1450.
[5]GRAHN, Robert A., et al. Erythrocyte pyruvate kinase deficiency mutation identified in multiple breeds of domestic cats. BMC veterinary research, 2012, 8.1: 1-10.
[6]SATO, Reeko, et al. Epidemiological evaluation of cats associated with feline polycystic kidney disease caused by the feline PKD1 genetic mutation in Japan. Journal of veterinary medical science, 2019, 81.7: 1006-1011.
2024年1月28日 修(獣医師&獣医学博士)
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